【寄与分|遺留分との関係・相互援助→差引計算|生前の不公平防止=対価の授受】
1 被相続人と相続人の相互援助・対価→『寄与分』は差し引き計算
2 『寄与分』の差し引き計算|具体的事例|判例
3 『相続人の親族』による援助も『寄与分』に含める
4 遺留分×寄与分|遺留分の判断では『寄与分』は考慮しない
5 遺留分×寄与分|寄与分の判断で『遺留分』を考慮する傾向あり
6 遺留分×寄与分|曖昧な関係のまとめ
7 将来の『寄与分』の期待は裏切られる可能性が高い
8 『寄与分』と判定されない→不公平|防止策=『対価の授受』
本記事では寄与分のイレギュラーな検討事項を説明します。
寄与分の基本事項については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|寄与分の基本|故人への生前の支援・貢献が遺産分割で反映される
1 被相続人と相続人の相互援助・対価→『寄与分』は差し引き計算
寄与分の対象者は,相続人の1人です。
被相続人と親子などの近い親族関係がある者同士です。
時期によって相互に金銭,労務的援助がなされた,ということも多いです。
相続法における概念としては寄与分と特別受益ということです。
条文上は,この2つの処理方法について定められていません。
なお,この点についての詳しい考察は別に説明しています。
別項目;寄与分,特別受益;計算順序
ここでは,計算順序による違いが生じないような単純なケースを前提に説明します。
<寄与分;反対給付や特別受益が伴う場合;概要>
相殺的,清算的,つまり差し引き計算をする傾向が強い
『対価を得ていた』ことの扱いについての一般論を示した判例を紹介します。
<得た賃金・報酬と『労務』のバランス×寄与分>
あ 状況
被相続人の事業に労務を提供した
支払われた賃金や報酬などが『提供した労務』の対価として不十分である
い 判断
残余の部分(無支給部分)について寄与分が認められる可能性がある
※大阪高裁平成2年9月19日
2 『寄与分』の差し引き計算|具体的事例|判例
『寄与分』の判断で『相続人が得た利益』を考慮した具体的判例をまとめます。
<農業に従事vs贈与を受けた→寄与分なし>
農業を手伝った→財産形成に寄与した
謝礼の趣旨を含めて法定相続分を大幅に超える贈与を受けていた
↓
寄与分を否定
※福岡家裁白河支部昭和55年5月24日
<家業に従事+日常の世話vs住居に居住+駐車場収入→寄与分あり>
家業の精米販売などに従事した
被相続人の世話をしていた
遺産の土地に居住していた+有料駐車場にして収入を得ていた
↓
差し引きで『寄与』が大きい
↓
寄与分を認めた
※福岡家裁小倉支部昭和56年6月18日
<ビル建築に従事vs給与・ビルの無償使用→寄与分あり>
ビルの立案・建築等に従事した→遺産形成に寄与した
ビル完成後,給与の支給を受けていた+ビルの5・6階を無償で使用していた
↓
寄与分を認めた
※東京高裁昭和63年5月11日
<家業に従事vs不動産取得→寄与分なし>
家業の手伝いをしていた
3か所の不動産を取得していた
↓
寄与分を否定
※広島高裁松江支部平成3年8月28日
<大きな貢献vs生前贈与→寄与分なし>
貢献は大きかった
既に生前贈与を受けていた+持戻しをしないで具体的相続分を計算していた
↓
寄与分を否定
※高松高裁平成11年1月8日
3 『相続人の親族』による援助も『寄与分』に含める
故人の生前に,相続人の妻が介護等の支援を行っていた,ということは多いです。
この点,寄与分の条文上は,対象者は共同相続人の1人とされています(民法904条の2第1項)。
形式的には相続人自身だけであって,その家族などは対象外となります。
しかし,救済的な解釈がされることも多いです。
<相続人の親族・関係者による援助×寄与分>
あ 概要
相続人の妻子などの家族の行為についても寄与分の判断対象となる
『相続人の寄与』と同視できる場合に『相続人の寄与』とみなす
い 理由
寄与分制度は共同相続人間の公平を図る目的である
※東京高裁平成元年12月28日
相続人の家族の行為でも『相続人自身の行為とみなす』ということです。
具体的な判例の事情を紹介します。
<相続人の夫の資金提供→寄与分あり>
援助資金の負担者=相続人の夫
同一家計である
被相続人が苦しい時に相続人の口添えと努力により650万円の融資がなされた
↓
相続人の寄与分として認めた
※東京高裁昭和63年5月11日
<相続人の妻による献身的看護>
相続人の補助者or代行者としてなされた
↓
相続人の寄与分として認めた
※神戸家裁豊岡支部平成4年12月28日
<相続人の妻子による介助>
被相続人は脳梗塞による後遺症を持っていた
相続人の『妻子』が被相続人を介助していた
相続人の履行補助者的立場にある
↓
寄与分を認めた
※東京家裁平成12年3月8日
4 遺留分×寄与分|遺留分の判断では『寄与分』は考慮しない
遺留分と寄与分の関係が問題になることがあります。
まず『遺留分の判断』の中には『寄与分』が入ってきません。
<遺留分の判断における『寄与分』の扱い>
遺留分減殺請求において『寄与分』を抗弁として主張すること
→認められない
※東京高裁平成3年7月30日
5 遺留分×寄与分|寄与分の判断で『遺留分』を考慮する傾向あり
寄与分の判断では,曖昧ですが,遺留分を考慮する方向性があります。
判例中の考察をまとめます。
<寄与分の判断における『遺留分』の扱い>
あ 判例の結論
原則的には『遺留分』は関係ない
ただし『遺留分』を1つの事情として考慮することもある
い 遺留分を考慮する理由
ア 寄与分が大きいことで生じること
『寄与分』が大きすぎる
→他方の相続人が『遺留分減殺請求』が『可能となってしまう』
→遺留分減殺請求により『寄与分で優先配当を受けた財産を戻す』ことになる
=大きくした『寄与分』の一部が無効化される
イ 良くない結果
寄与分協議・審判の後に『遺留分減殺請求訴訟』を誘発することになる
→寄与分の効果が一部無効になる+手間を増やす+解決を遅くさせる
ウ 悪影響を避ける解釈
『遺留分侵害→減殺請求』を誘発しない考慮もあり得る
※東京高裁平成3年12月24日
6 遺留分×寄与分|曖昧な関係のまとめ
遺留分と寄与分の関係はちょっと分かりにくいのです。
前述の判例の判断をまとめます。
<遺留分×寄与分|まとめ>
あ 基本的扱い
遺留分・寄与分は別個独立・リンクしていない
い 例外
寄与分が大き過ぎて『遺留分侵害』を作ってしまう場合
→これを避けるように『寄与分』を『調整する』方向性
7 将来の『寄与分』の期待は裏切られる可能性が高い
<事案>
父には子がA,B,Cの3人がいる
Aが父と同居し,日々の世話をしている
父は『相続ではAを優遇したい』と言っている
しかし将来の相続の時に『特別の寄与』としては認められない可能性が心配
どうしたら良いのか
通常,親子などの親族間では,『介護や家事の労務の費用』や『住居の使用料』の授受をしないことが多いです。
これ自体は問題ないですし,常識的な感覚に沿うものです。
しかし,将来の相続で『想定外』が生じます。
子供が親に『労務・苦労・住居使用分』などを提供したケースが典型です。
『寄与分』として相続の時に是正する制度はありますが,認定のハードルが高いのです。
詳しくはこちら|寄与分の基本|故人への生前の支援・貢献が遺産分割で反映される
一定のハードルを超えないと相続ではゼロ評価,つまり考慮されないのです。
『貢献・努力』が相続の時の『不公平』につながってしまうのです。
8 『寄与分』と判定されない→不公平|防止策=『対価の授受』
(1)生前に対価を受け取っておくとリスク回避になるが,過剰だと問題がある
<『寄与分』としての不公平回避が作動しないリスク回避方法>
あ リスク回避方法
当初より貢献・努力の『対価』を受け取っておく
い 注意点
『実態』に関する資料・証拠を残しておく
もちろん,実態のない支払については『贈与』として認定されます。
そうすると『特別受益として持戻し』の対象になります(民法903条)。
さらに『贈与税課税リスク』も負います。
しかし『労務提供・住居提供』などの実質的対価があれば『特別受益』には該当しません。
親族間で『サービスの対価の授受』をするのは,心情的,感覚的にはおかしいとも思えます。
しかし,他の(推定)相続人との関係,の配慮としては有効です。
(2)遺留分の紛争防止にもなる
ところで,特別受益は遺留分算定でも適用されます。
別項目;遺留分;算定方法,算入する贈与の範囲
上記の寄与分認定否定リスク回避方法は,遺留分のケアとして用いられることの方が多いです。
他の推定相続人からの遺留分請求に対する(最低限の)対抗策という位置付けです。
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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