【海外資産の相続→承継|準拠法と手続法|海外の遺言・プロベート・共有名義口座】

1 海外資産の相続・承継|準拠法と手続の法律が違う
2 日本人の海外資産の相続→準拠法は日本・手続は海外の法律
3 海外資産の相続承継|手続遂行上の問題|遺言の有/無で違う
4 海外資産の相続承継|手続上要求される『遺産分割の資料』はヘビー
5 海外資産の相続承継|手続上要求される『戸籍の資料』はヘビー
6 海外資産の相続承継|予め海外で遺言作成をしておくとベター
7 海外での遺言作成|プロベート手続|日本の検認とは違うので要注意
8 海外資産の相続承継|手続・コストを大幅に省く方法|共有名義口座

1 海外資産の相続・承継|準拠法と手続の法律が違う

日本人が海外に資産を保有していることは,最近ではよくあります。
この場合『相続の時の財産承継』の時に適用される法律がちょっと複雑です。

<国際的な相続×適用される法律>

実体的な権利関係=準拠法 『手続』に関する規定
被相続人の本国法 財産所在地の法律

※通則法36条,コモンロー
※『月報司法書士2015年1月』p29〜

『誰が承継するか』・『預金・不動産を承継する手続』の2つについて,同じ国のルールが使われるとは限らないのです。
『誰が承継するか』という実体法の適用=準拠法,については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|国際的法律問題まとめ(準拠法・国際裁判管轄・内容証明・強制執行)

2 日本人の海外資産の相続→準拠法は日本・手続は海外の法律

具体例を元に『相続の時に適用される法律』を説明します。

<相続手続×適用される法律|典型例>

あ よくある典型例

日本人がシンガポールに預金債権を有している

い 適用される法律
相続の実体法(準拠法) 日本法
相続の『手続』に関する法律 シンガポール法
う 相続の準拠法=日本法|具体的規定
遺言がない場合 『法定相続』→遺産分割により具体化する
遺言がある場合 遺言内容のとおりとなる(分割方法の指定など)

※民法900条

よくある典型例を用いました。
相続の実体法自体は日本法が適用されます。
具体的なルールとしては,民法の法定相続遺産分割が主なカテゴリです。
詳しくはこちら|法定相続分|遺産共有・遺産分割の必要・遺言による回避
詳しくはこちら|相続手続全体の流れ|遺言の有無・内容→遺産分割の要否・分割類型・遡及効

3 海外資産の相続承継|手続遂行上の問題|遺言の有/無で違う

(1)海外資産の相続承継の手続|共通事項

海外資産の相続承継では実際に行う『手続』の負担が大きいことが多いです。
まずは『海外資産を相続で承継する』こと一般に共通する『負担』があります。

<海外資産の相続承継|手続遂行上の課題|共通>

手続遂行のために『日本法の専門家の意見書』が必要になることが多い

意見書の記載内容 『日本の民法の内容・具体的承継内容』
要求される『専門家』 弁護士

(2)海外資産の相続承継の手続|遺言の有/無

遺言の有無により,手続の負担が大きく違ってきます。

<海外資産の相続承継×手続遂行|遺言がある場合>

『専門家の意見書』は不要or説明を求められても少量で済む
ただし『検認証明書』含めて訳文が必要である

<海外資産の相続承継×手続遂行|遺言がない場合>

一般的に,次のような資料が要求されている

あ 遺言がない場合共通

専門家の意見書
『詳細なもの』が要求される傾向が強い

い 遺産分割の場合

遺産分割協議書or調停調書など

う 法定相続の場合

戸籍事項証明書(謄本)

4 海外資産の相続承継|手続上要求される『遺産分割の資料』はヘビー

海外資産の相続承継の手続で『遺産分割の資料』が要求されることがあります。
ここで『海外の手続』特有の特徴があります。

<遺産分割の資料|注意点>

あ 遺産分割協議書では不十分という傾向

特にコモンロー制度の国では『協議』が軽視される傾向が強い
実務上『任意協議』が否定的に解釈される傾向がある

い 調停調書・和解調書は尊重される

裁判所作成の資料については尊重・重視される
《推奨される資料》
ア 遺産分割調停→調停調書イ 訴え提起前の和解→和解調書 実質的な争いがなく『資料取得目的』という場合に適している

訴え提起前の和解は,状況によっては『ちょうど使い勝手の良い最適解』となります。
詳しくはこちら|訴え提起前の和解の基本(債務名義機能・互譲不要・出席者)

5 海外資産の相続承継|手続上要求される『戸籍の資料』はヘビー

海外資産を相続で承継する手続では『戸籍』に関する資料が要求されることがあります。
ここでの注意点をまとめます。

<戸籍事項証明書|注意点>

あ 戸籍事項証明書・謄本取得作業が膨大になる

(法定相続の場合)相続関係の立証の作業が膨大になる傾向がある
国によって『戸籍事項証明書を確保する範囲』が大きく異なる

い 翻訳も膨大になる

『戸籍内容』についての翻訳が必要となる
実務上,マイナー言語への翻訳で数十万円になることも多い

6 海外資産の相続承継|予め海外で遺言作成をしておくとベター

海外資産を相続により承継する手続で『日本の遺言』を使うと一定の手間・コストがかかります。
この点『海外(財産所在国)で作成した遺言』であればスムーズです。

<遺言作成を海外の役所で行う方法>

あ 遺言作成を『財産所在国』で行うメリット

相続承継手続上,多くの手間・コストを省ける
『手続のスピード』は(日本の遺言の場合と比べて)大幅に短縮される
日本でも法律的な有効性は問題ない

い 海外で作成した遺言|注意点

プロベート(Probate)が必要なことがある

プロベートの手続については次に説明します。

7 海外での遺言作成|プロベート手続|日本の検認とは違うので要注意

海外で作成した遺言は,その国の法律に従って『プロベート』が必要とされることが多いです。

<プロベート(Probate)>

あ 日本の『検認』とは違う

直訳すると『遺言の検認』とされている
しかし,日本の手続(民法1004条)とは異なる

い プロベート手続の趣旨

『有効性(有効or無効)』を確定するプロセス
※田中英夫『英米法辞典』東京大学出版社

う プロベート手続|注意点

ア プロベート手続自体のコスト 審理内容がしっかりしている
→その分,費用が一般的に高額である
イ その他のコスト 申立代理人弁護士・遺産管理人(Administrator)の報酬も必要となる
ウ コストの実例 トータルで100万円以上となる実例が多い

このように,日本の『検認』と似ているけど手続はヘビーです。
詳しくはこちら|遺言の検認|検認義務・手続の流れ・遺言作成時の注意
また,一定のコストは必要になるのです。
とにかく『死後の財産承継がスピーディー』というところが最大のメリットなのです。
『資産の拘束期間』を大幅に削減できる,という言い方もできます。

8 海外資産の相続承継|手続・コストを大幅に省く方法|共有名義口座

海外資産ならではの制度を使った『相続承継手続を省略する方法』があります。

<海外資産の相続承継手続・コストを削減する工夫>

あ 具体的方法

共有名義口座(Joint Account)を活用する
国によっては夫婦などの『共有(複数人名義)の口座』が認められている
→『相続手続』自体を大幅に省略できる

い 注意点

日本の税務署に『贈与』と認定されるリスクがある

以上のように,海外資産が含まれる資産は,『事前準備』も『死後の相続手続』も複雑です。
当然,税務的な面もしっかりとケアする必要があります。
複数の専門家によるチーム体制で最適な方法で対応すべきです。
もちろんみずほ中央ではパートナーシップを組んでいる税理士も含めて事前・事後の手続のサポートを提供しています。

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