【相続放棄の『取消』|騙された・間違えた・脅された|期間制限・家裁の申述】
1 相続放棄×『騙された・間違えた・脅された』|典型例
2 相続放棄の撤回|『取消』と『無効』の制度×手続
3 相続放棄の『取消』|取消事由
4 相続放棄の『取消』|主な取消事由は『詐欺・強迫』|実例
5 相続放棄の『取消』|期間制限
6 相続放棄の『取消』の手続|家裁の『申述』
本記事では,相続放棄の『取消』について説明します。
相続放棄の『無効』については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|相続放棄の『無効』|『取消』とは違う|要素/動機の錯誤|家裁の申述ではない
1 相続放棄×『騙された・間違えた・脅された』|典型例
相続放棄は意義・メリットが大きく,また『相続から脱する』という強力な効果があります。
詳しくはこちら|相続放棄により相続人ではない扱いとなる(相続放棄の全体像)
一方で『後から後悔する』ということもよくあります。
相続放棄したことを後悔する典型例をまとめます。
<相続放棄×『騙された・間違えた・脅された』|典型例>
あ 騙されて相続放棄をした|典型例
他の相続人や関係者から『ウソを言われた』
《ウソの例》
ア 『相続放棄をすれば財産を分けてあげる』
→実際には財産をくれなかった
イ 『相続放棄をすれば,将来困った時に生活費をあげる。悪いようにはしない』
→実際にはその後困った状態になった時に援助してくれなかった
ウ 『借金しかないから相続放棄した方が良いよ』
→実際には多額の遺産(プラス財産)があった
い 脅されて相続放棄をした|典型例
『相続放棄をしないと◯◯の不祥事を表沙汰にする』と言われた
う 勘違いで相続放棄をした|
相続放棄をすれば『息子』に遺産が渡ると思った
→実際には『父・母』に遺産が承継されることになってしまった
2 相続放棄の撤回|『取消』と『無効』の制度×手続
相続放棄を行うプロセスに一定の事情がある場合『撤回』が認められます。
相続放棄を『撤回』する制度は『取消』と『無効』の2つがあります。
これを整理します。
<相続放棄の『撤回』>
主張のタイプ | 手続 | 期間制限 | 民法 |
取消 | 家裁の申述 | 規定あり(※1) | 919条 |
無効 | 規定なし(一般の訴訟) | 規定なし | 93〜95条類推 |
相続放棄の『取消』の制度の内容は次に説明します。
相続放棄の『無効』を主張する方法については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|相続放棄の『無効』|『取消』とは違う|要素/動機の錯誤|家裁の申述ではない
3 相続放棄の『取消』|取消事由
相続放棄の『取消』が認められるための事情,つまり『取消事由』をまとめます。
<相続放棄の『取消』|理由>
あ 相続放棄『取消』の理由
民法『総則』『親族』のセクションの規定
※民法919条2項
い 『取消』理由の具体的事情(規定)
相続放棄に関する事情 | 民法 |
未成年者×法定代理人の同意なし | 5条1項,2項 |
成年被後見人 | 9条 |
後見監督人の同意なし | 865条 |
被保佐人×保佐人の同意なし | 13条1項6号 |
詐欺or強迫 | 96条 |
4 相続放棄の『取消』|主な取消事由は『詐欺・強迫』|実例
相続放棄の『取消』を行う実際の事情としては『詐欺・強迫』が多いです。
具体的なケースを紹介します。
<相続放棄の『取消』|典型ケース>
『詐欺or強迫』によって『相続放棄』をさせられた
→裁判所が『相続放棄の取消』の申述を認めた
ただし『取消事由の存否の判断』を行ったわけではない
※札幌高裁昭和55年7月16日
※東京高裁昭和27年7月22日
5 相続放棄の『取消』|期間制限
相続放棄の『取消』を行う場合『期間制限』に注意が必要です。
<相続放棄の『取消』|期間制限>
あ 相続放棄の手続との関係
相続放棄の受理審判前
い 熟慮期間との関係
熟慮期間満了前
う 追認可能時期との関係;時効
追認をすることができる時から6か月
え 意思表示時期との関係;除斥期間
意思表示から10年
→『相続放棄の申述』のこと
※民法919条3項
※中川善之助ほか『相続法』有斐閣p378
実際には,以上の4つのすべてをクリアしないと『取消』ができないのです。
ただし,相続放棄の『無効』については期間制限の規定がありません。
『取消』はできなくても『無効』の主張は可能,というケースもよくあります。
6 相続放棄の『取消』の手続|家裁の『申述』
相続放棄の『取消』を行う場合の手続をまとめます。
<相続放棄の『取消』|手続>
あ 相続放棄の『取消』の『申述』
家裁に『申述』を申し立てる
=家裁の審判手続
※民法919条4項
い 家裁の審査内容
『取消事由の存否』は審査・判断しない
※札幌高裁昭和55年7月16日
う 『取消』の効果の判断
別途,通常の訴訟で判断する
家裁の審理では『取消が認められるかどうか』は判断しない,という裁判例もあるのです。
この場合は『取消の有効性判断』の決着は持ち越しとなります。
つまり,特定の利害対立の相手との『訴訟』で『取消の有効性』が判断される,ということになります。
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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