【法定単純承認|処分|法律上・事実上の処分・典型例・主観的要件・時期】
1 『処分』が単純承認とみなされる趣旨
2 法定単純承認|法律上の処分行為|具体例
3 法定単純承認|『処分』に該当しない行為
4 法定単純承認|処分|事実行為
5 法定単純承認×『相続財産』以外の処分
6 法定単純承認|『処分』の範囲
7 法定単純承認|主観的要件=相続を知っている
8 法定単純承認|『処分』の時期
1 『処分』が単純承認とみなされる趣旨
遺産の『処分』は『法定単純承認』のうちの1つです(別記事;リンクは末尾に表示)。
『処分』が単純承認とみなされる趣旨をまとめます。
<『処分』が単純承認とみなされる趣旨>
ア 黙示の単純承認イ 第三者が,単純承認があったと信じるのが当然である
※大判大正9年12月17日
※最高裁昭和42年4月27日
2 法定単純承認|法律上の処分行為|具体例
法定単純承認の『処分』の代表的なものは『法律上の処分』です。
典型的な具体例をまとめます。
<法定単純承認|法律上の処分行為|具体例>
あ 預貯金の解約
い 債権の取り立て
※最高裁昭和37年6月21日
う 財産の譲渡
例;不動産・動産
え 遺産分割協議
※大阪高裁平成10年2月9日
お 賃借権を前提とする訴訟提起
《事案》
『賃借権を相続で承継し,自己に帰属する』と主張して訴訟を提起した
※東京高裁平成元年3月27日
か 株主権行使・賃料送金口座の変更
《事案》
ア 被相続人の株主権を行使したイ 被相続人の賃貸マンションの賃料振込先を自己名義の口座に変更した
※東京地裁平成10年4月24日
3 法定単純承認|『処分』に該当しない行為
法律的な『処分』と言えるけれど『法定単純承認』とは認めないケースもあります。
<法定単純承認|『処分』に該当しない行為>
あ 預貯金の解約→葬式費用にした
※大阪高裁平成14年7月3日
い 相続前の仮登記→相続後に本登記
相続開始前に死因贈与の仮登記を行った
→相続開始後に本登記を行った
※東京地裁平成7年12月25日
4 法定単純承認|処分|事実行為
法定単純承認の『処分』には『事実行為としての処分』も含みます。
<法定単純承認|処分|事実行為>
遺産を『滅失・毀損・変更』する行為
5 法定単純承認×『相続財産』以外の処分
法定単純承認は『遺産=相続財産』を対象とした行為です。
『相続財産以外』を処分しても法定単純承認に該当しません。
曖昧なケースでの判例を紹介します。
<法定単純承認×『相続財産』以外の処分>
あ 事案
ア 生命保険
被相続人は生前,相続人を受取人とした生命保険に加入していた
被相続人の死亡後,相続人が生命保険金を請求・受領した
イ 相続債務弁済
上記保険金を用いて,相続債務の一部を弁済した
い 裁判所の判断
『処分』に該当しない
→相続放棄を認めた
※福岡高裁宮崎支部平成10年12月22日
6 法定単純承認|『処分』の範囲
法定単純承認となる『処分』は,法律上,一定の制限があります。
<法定単純承認|『処分』の範囲>
あ 『処分』の範囲
『保存・管理』行為の範囲内
→『処分』に該当しない
い 『処分』に該当しない賃貸借
短期賃貸借の期間を超えない賃貸借
※民法602条
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存の判別と必要な共有者の数
7 法定単純承認|主観的要件=相続を知っている
法定単純承認の『処分』は,処分を行った相続人の認識も関係します。
<法定単純承認|主観的要件=相続を知っている>
あ 法定単純承認の前提条件
『処分』当時に当該相続人が次のいずれかに該当していた
ア 自己のために相続が開始した事実を知っていたイ 被相続人が死亡した事実を確実に予想していた
い 認識が不十分な場合
『法定単純承認』は適用されない
=相続放棄・限定承認を行うことができる
※最高裁昭和42年4月27日
※東京高裁平成12年12月7日
『相続を知らない』ことを理由に救済する理論は『熟慮期間の起算点』でもあります。
詳しくはこちら|相続放棄の熟慮期間の起算点とその繰り下げ(限定説と非限定説)
8 法定単純承認|『処分』の時期
法定単純承認の『処分』として認められる時期の解釈をまとめます。
<法定単純承認|『処分』の時期>
相続放棄・限定承認の前に行われたものが対象となる
※我妻栄ほか『判例コンメンタール 8』コンメンタール刊行会p174
※中川善之助『註釈相続法(上)』有斐閣p247
※大判昭和5年4月26日
※大判昭和6年3月14日
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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