【包括/特定承継の違い|対抗要件・登記申請・借地権・農地・株式・相続放棄】

1 相続×『包括承継/特定承継』|分類
2 包括承継/特定承継の違い|まとめ
3 株式譲渡制限|包括/特定承継の違い
4 権利取得の対抗要件の要否|包括/特定承継の違い
5 不動産登記・共同申請の要否|包括/特定承継の違い
6 借地権譲渡承諾の要否|包括/特定承継の違い
7 農地法の許可の要否|包括/特定承継の違い
8 株式売渡請求の可否|包括/特定承継の違い
9 相続放棄の影響の有無|包括/特定承継の違い

1 相続×『包括承継/特定承継』|分類

相続による財産の承継は,大きく2種類に分けられます。
『包括承継』と『特定承継』です。
遺言がある場合には,その内容によってどちらになるかが違ってきます。
この法的性質からいろいろな具体的な違いにつながります。
まずは包括承継/特定承継の分類から整理します。

<相続×『包括/特定承継』|分類>

あ 包括承継

ア 法定相続イ 遺産分割方法の指定 『相続させる』遺言もこれに該当する
※最高裁平成3年4月19日
詳しくはこちら|『相続させる』遺言(特定財産承継遺言)の法的性質や遺産の譲渡との優劣
ウ 相続分の指定

い 特定承継

ア 特定遺贈イ 死因贈与

2 包括承継/特定承継の違い|まとめ

包括承継と特定承継では,法律的な扱いの違いがいくつかあります。
まずは『違い』を全体的にまとめます。

<包括承継/特定承継の違い|まとめ>

あ 包括承継が有利

ア 株式譲渡制限イ 対抗要件具備による確定的移転ウ 『単独』での登記申請エ 農地法の譲渡許可

い 特定承継が有利

ア 株式売渡請求の可否イ 相続放棄の影響の有無

う 有利/不利のどちらでもない

遺言執行者による執行の可否

以上の『有利/不利』の分類はごく一般的なものです。
個別的な事情・希望によってどのような設定が有利・最適か,は異なります。
また,個々の法律的な解釈・扱いは細かい内容があります。
以下,説明します。

3 株式譲渡制限|包括/特定承継の違い

『株式の承継』について,包括承継・特定承継の違いをまとめます。

<株式譲渡制限|包括/特定承継の違い>

あ 包括承継

『譲渡』ではない
→制限を受けない
=会社側の承諾は不要

い 特定承継

『譲渡』である
→会社側の承諾が必要
※会社法107条1項1号

4 権利取得の対抗要件の要否|包括/特定承継の違い

一般論として,権利取得については,対抗要件(登記など)がないと主張できないものと,対抗要件がなくても主張できるものがあります。登記がないと主張できない状況のことを対抗関係といいます。
対抗要件の要否は,包括承継・特定承継で違います。

<権利取得の対抗要件の要否|包括/特定承継の違い>

あ 包括承継

ア 一般論 対抗要件がなくても第三者に対抗可能
イ 『相続させる』遺言 一般の相続(上記)同様
=対抗要件は不要
※最高裁平成14年6月10日;不動産登記について

い 特定承継

対抗関係となる
例外;遺言執行者が選任されている場合(後記)
※民法1013条
※最高裁昭和62年4月23日;特定遺贈

詳しくはこちら|相続に関する権利変動(承継)における登記の要否(対抗関係該当性)の全体像

5 不動産登記・共同申請の要否|包括/特定承継の違い

不動産登記を申請する場面では包括承継・特定承継の違いが現れます。

<不動産登記・共同申請の要否|包括/特定承継の違い>

あ 包括承継

単独申請で行う
※不動産登記法62条

い 特定承継

例;特定遺贈
共同申請で行う
※不動産登記法60条

相続における登記については別記事で詳しく説明しています(リンクは前記)。

6 借地権譲渡承諾の要否|包括/特定承継の違い

借地権の承継については,包括承継・特定承継で『承諾の要否』が異なります。

<借地権譲渡承諾の要否|包括/特定承継の違い>

あ 包括承継

『譲渡』に該当しない
→承諾不要

い 特定承継

『譲渡』に該当する
→地主の承諾が必要
※借地借家法19条
詳しくはこちら|賃借権の譲渡の意味と典型的なケースについての判断

7 農地法の許可の要否|包括/特定承継の違い

『農地』の承継では,包括承継・特定承継で違いがあります。

<農地法の許可の要否|包括/特定承継の違い>

あ 対象となる行為

『農地』の譲渡

い 包括承継

適用なし
=許可不要

う 特定承継

適用あり
=許可必要
※農地法3条1項本文,ただし書10号,施行規則3条5号

8 株式売渡請求の可否|包括/特定承継の違い

譲渡制限株式の承継については,包括承継・特定承継の違いがあります。

<株式売渡請求の可否|包括/特定承継の違い>

あ 前提事情

譲渡制限株式について承継が生じた

い 包括承継

包括承継をした者(権利者)に対する行使
→可能

う 特定承継

特定承継をした者(権利者)に対する行使
→できない

え 違いの理由=制度趣旨

制度趣旨=一般承継人のうち好ましくない者を排除する
特定承継については『別の制度=譲渡制限』で対応する

9 相続放棄の影響の有無|包括/特定承継の違い

『相続放棄』がなされた場合に,包括承継・特定承継では影響が異なります。

<相続放棄の影響の有無|包括/特定承継の違い>

あ 包括承継

『相続』の範囲内
→相続放棄により『承継が否定』される

い 特定承継

『相続』の範囲外
→相続放棄をしても『効果は維持』される

う 例外的扱い

個別的事情によっては,権利濫用などによる例外的な扱いもある
詳しくはこちら|相続の良いトコ取り作戦|債務・望まぬ不動産を承継しない×欲しい財産は承継

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