【他の方が『相続放棄をしたかどうか』を家庭裁判所へ照会できる】
1 『相続放棄』をすると『次順位の相続人』が繰り上がる
2 先順位相続人が『相続放棄をしたかどうか』を家庭裁判所への照会できる
3 『推定相続人の債権者』からの照会は認められない
4 『被相続人の債権者』からの照会は認められる
5 家庭裁判所への相続放棄の確認を申請できる者;まとめ
6 公正証書遺言の有無の検索システム(参考)
1 『相続放棄』をすると『次順位の相続人』が繰り上がる
『先順位の相続人が相続放棄をしたかしていないか』は,後順位の(推定)相続人にとって直接影響のある事項です。
相続人になるか否かと直結するからです。
2 先順位相続人が『相続放棄をしたかどうか』を家庭裁判所への照会できる
しかし,先順位相続人に聞いても,その関係によっては答えてくれないこともあります。
その場合には,直接家庭裁判所に『相続放棄があったかなかったか』を確認することができます。
前提として,相続放棄や限定承認は,必ず家庭裁判所での手続が必要です。
仮に手続がされていれば,家庭裁判所には相続放棄や限定承認の手続の記録があるのです。
家庭裁判所に照会すればそのような手続きの有無を確認できます。
家事審判の記録の謄写,としての扱いになります(家事事件手続法47条1項,5項)。
3 『推定相続人の債権者』からの照会は認められない
事例を用いて説明します。
(1)設定
AがBにお金を貸しています。
Bのお父さんが亡くなって,遺産が入ってきたと思われます。
しかし,Bは相続放棄をした可能性もあります。
Aは「Bが相続放棄をしたか,してないか」を知りたいです。
(2)相続人の債権者からの照会の可否
相続人の債権者(A)は家庭裁判所に「Bの相続放棄」について照会することはできません。
確かに,「推定相続人の債権者」の立場から見ると,債務者(借主)に遺産が入ってきたかどうかは影響が大きいこともありましょう。
しかし,相続を受けるか受けないか,どの財産を相続するか,という問題は,「家族プロパー」の話しです。
一身専属的と呼ぶこともあります。
推定相続人の債権者の受ける影響は,相続放棄の反射的・間接的なものに過ぎません。
相続放棄の有無を確認するための利害関係者には該当しません(家事事件手続法47条1項)。
4 『被相続人の債権者』からの照会は認められる
事例を用いて説明します。
(1)設定
AがBにお金を貸しています。
Bが亡くなりました。
Bの債務は相続人であるBの妻や子が承継したと思われます。
一方,仮にBの妻や子が相続放棄をしていれば,債務を承継しません。
Aとしては,Bの妻や子が相続放棄をしたかどうかを知りたいです。
(2)被相続人の債権者からの照会の可否
被相続人の債権者(A)は家庭裁判所に「Bの妻子の相続放棄」について照会することができます。
被相続人の債権者は,債権者として訴訟や差押えといった裁判手続きを行う際,被告等として相手取るのは「債務を承継した者」です。
つまり,債務者の相続人,です。
債務者の推定相続人のうち誰かが相続放棄をしたのかどうか,については,直接的な利害関係があります。
各種裁判手続きの相手方を誰にするか,に関わってきます。
また,仮に推定相続人全員が相続放棄を行った場合,相続財産管理人選任申立を行うとか,相続分離請求手続を行う必要が出てくることもあります。
そこで,相続放棄の申述の有無の照会については,利害関係者として申請可能とされています(家事事件手続法47条1項)。
5 家庭裁判所への相続放棄の確認を申請できる者;まとめ
<相続放棄の確認を申請できる者>
確認の申請者 | 閲覧の可否 |
(推定)相続人 | ◯ |
被相続人の債権者 | ◯ |
(推定)相続人の債権者 | ☓ |
6 公正証書遺言の有無の検索システム(参考)
相続の場面で『相続放棄の確認』とは別に調査で使う別の公的手続があります。
『公正証書遺言の有無』を検索・確認する手続です。
これについては別記事で説明しています。
詳しくはこちら|公正証書遺言のデータベース化・検索システムと閲覧・謄本取得
条文
[家事事件手続法]
(記録の閲覧等)
第四十七条 当事者又は利害関係を疎明した第三者は、家庭裁判所の許可を得て、裁判所書記官に対し、家事審判事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は家事審判事件に関する事項の証明書の交付(第二百八十九条第六項において「記録の閲覧等」という。)を請求することができる。
2〜4(略)
5 家庭裁判所は、利害関係を疎明した第三者から第一項又は第二項の規定による許可の申立てがあった場合において、相当と認めるときは、これを許可することができる。
6〜10(略)
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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