【遺言能力|基本・全体|年齢・実質的判断|精神状態・遺言の複雑性・背景】

1 遺言能力|基本・全体
2 遺言能力|実質的判断|全体・基準
3 遺言能力|実質的判断|遺言時の精神状態
4 知能評価基準|種類
5 遺言能力|実質的判断|遺言内容の複雑性
6 遺言能力|実質的判断|遺言作成の背景
7 遺言能力|認知症/意思能力との違い

1 遺言能力|基本・全体

遺言の有効性は『遺言能力』によって決まるケースもあります。
最初に『遺言能力』の基本的事項についてまとめます。

<遺言能力|基本・全体>

あ 遺言能力|実質的判断

遺言作成時に『遺言能力』が必要である
実質的な判断能力によって判断する(後記)
※民法963条

い 遺言能力|年齢

15歳以上であれば遺言を作成することができる
『成年/未成年』は関係ない
※民法961条

う 遺言能力|成年被後見人

次の両方に該当すれば遺言作成をできる
ア 事理弁識能力がある 一時的に復活した状態
イ 医師2人以上が立会人となる ※民法973条1項

形式的な基準と実質的な判断の両方があるのです。

2 遺言能力|実質的判断|全体・基準

遺言能力のうち実質面は多くの事情によって判断されます。
判断基準や判断する事情の全体をまとめます。

<遺言能力|実質的判断|全体・基準>

あ 基本的事項

次の事情を総合的に考慮して判断する

い 判断する事情

ア 遺言時の精神的状況イ 遺言内容の複雑性ウ 遺言作成の背景エ 他の者の関与・干渉 遺言者以外の者による不当に関与・干渉の有無

判断する事情のそれぞれの内容は次に説明します。

3 遺言能力|実質的判断|遺言時の精神状態

『遺言時の精神状態』の内容をまとめます。

<遺言能力|実質的判断|遺言時の精神状態>

あ 判断する事情|基本

遺言時における遺言者の精神的状況
精神上の障害の存否・内容・程度

い 立証|精神心理学的観点

ア 精神心理学的検査の結果 遺言作成時・その前後の状況を記録したもの
診断書・知能評価判定結果(※1)
イ 担当医師・主治医の供述ウ 医療鑑定の結果 実施することは少ない

う 立証|行動観察的観点

遺言時又はその前後の症状・言動
ア 診療時の状況 入院診察録・看護記録
イ 遺言作成時の状況 遺言作成への同席者の供述
例;公証人や立会人
ウ 遺言作成前後の状況 家族・担当医師の供述

4 知能評価基準|種類

遺言時の精神状態の判断では『知的評価基準』が使われます(上記)。
知的評価基準にはいくつかの種類のものがあります。
これを整理します。

<知能評価基準|種類(上記※1)>

種類 中心的評価要素
改訂長谷川式簡易知能評価スケール=HDS-R 記憶力
N式老年者用精神状態尺度=NMスケール 行動観察
柄澤式老人知能の臨床的判定基準 行動観察

5 遺言能力|実質的判断|遺言内容の複雑性

『遺言内容の複雑性』について説明します。

<遺言能力|実質的判断|遺言内容の複雑性>

あ 基本的事項

『遺言内容』と『遺言者に求められる知的能力の程度』は相関する

い 相関関係|具体例

遺言者の精神能力が低い+遺言内容が複雑
→『判断能力』を超えている
→無効の可能性が高い
例;偽造されたもの

6 遺言能力|実質的判断|遺言作成の背景

『遺言作成の背景』についてまとめます。

<遺言能力|実質的判断|遺言作成の背景>

あ 判断する事情|基本

ア 遺言作成の動機・理由イ 遺言者と相続人・受遺者との人的関係・交際状況ウ 遺言作成に至る経緯

い 遺言能力の判断との関係|基本

間接的に遺言能力の有無に影響する

う 遺言能力の判断との関係|具体例

生前の家族関係から『長男との関係』は非常に悪かった
→遺言者が『長男への財産承継』を希望するとは考え難い
→当該内容の遺言は『動機』が合理的ではない
→本人の真意に基づいていない,という判断の方向性

え 証拠|典型例

ア 遺言者記載の日記・メモイ 関係者の供述 生前の遺言者の生活状況・人間関係に関するもの

7 遺言能力|認知症/意思能力との違い

例えば認知症の場合,遺言能力がないという場合が多いです。
しかし認知症などの医学的判断と遺言能力の判断はイコールではありません。
この違い・関係性について,次にまとめます。

<遺言能力|認知症/意思能力との違い>

あ 遺言能力・認知症の違い

『認知症』は精神医学的な判断である
『遺言能力』は法的な判断である
2つの判断は必ず対応するわけではない

い 遺言能力・意思能力の違い

『遺言能力』と『意思能力』は『判断能力』という点では同じである
『遺言』の場合は判断対象が高度・高価である傾向が強い
→『遺言能力』の方が『高い判断能力を要する』傾向がある(後記)

一般的な『意思能力』については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|意思能力・行為能力|基本|精神医学上の判断都の違い・2重効

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