【相続関係の調査(戸籍・法定相続情報証明制度)】
1 相続に関する戸籍調査の基本
2 相続人同士という立場だと戸籍証明書が取得できる
3 相続前の異母兄弟の戸籍の調査はできない
4 父の戸籍事項証明書により認知の有無は分かる
5 弁護士による職務上請求では戸籍調査をしやすい
6 法務局の法定相続情報証明制度
1 相続に関する戸籍調査の基本
本記事では,相続関係の調査について説明します。
相続に関するいろいろな手続では,準備段階で戸籍による調査を行います。
戸籍事項証明書によって,法律的な相続関係が分かるのです。
<相続に関する戸籍調査の基本>
あ 戸籍の記載事項
戸籍には血縁関係や婚姻や養子縁組による身分関係が記録されている
い 相続に関する情報
戸籍に記録されている情報によって
被相続人と相続人という関係が判明する
う 具体的な調査方法
相続人が役所において
被相続人の戸籍事項証明書(戸籍謄本)の交付を受ける
※戸籍法10条1項,10条の2第1項1号
詳しくはこちら|住民票・戸籍の情報の取得方法(閲覧・証明書交付請求)と開示される者の範囲
2 相続人同士という立場だと戸籍証明書が取得できる
相続人となる者の範囲は,民法上の法定相続人の規定で決まっています。
詳しくはこちら|相続人の範囲|法定相続人・廃除・欠格|廃除の活用例
一般的に相続人同士は,遺産分割の協議や調停を行うことや,遺留分の権利を行使するといった利害関係があります。
詳しくはこちら|遺産分割|手続の流れ|協議・調停・審判・保全処分・欠席対応・寄与分との関係
詳しくはこちら|遺留分の制度の趣旨や活用する典型的な具体例(改正前・後)
例えば複数の兄弟が相続人であれば,お互いに相手の戸籍事項証明書を取得できることもあります。
戸籍法10条の2第1項1号の『自己の権利を行使し・・・ために戸籍の記載事項を確認する必要がある』に該当するからです。
ただし,被相続人の戸籍(除籍)事項証明書だけで相続関係が判明するので,相手の戸籍事項証明書は不要ということもあり得ます。
3 相続前の異母兄弟の戸籍の調査はできない
異母兄弟(半血の兄弟)がいるかどうかを確認したいというケースがあります。
異母兄弟は将来,相続人同士の関係になる予定といえます。
しかし,相続の前はあくまで予定であり,相続人同士の関係であるとはいえません。
そこで,相互に相手の戸籍事項証明書を取得することはできません。
<相続前の異母兄弟の存否の確認>
あ 事例(具体的状況)
父が不倫相手との間の子供Bを認知していたようだ
私Aを含む家族はまったく関知していない
私とは『兄弟』にあたる状態になった
この『兄弟』の戸籍証明書を取得することはできないのか
い 法的な立場
Bが認知されていた場合
→AとBは将来相続人同士となる
しかし現時点(相続開始前)は法的な相続関係はない
4 父の戸籍事項証明書により認知の有無は分かる
子からみて父は直系尊属です。
そこで,子は父の戸籍事項証明書の取得ができます。
詳しくはこちら|住民票・戸籍の情報の取得方法(閲覧・証明書交付請求)と開示される者の範囲
父が認知していれば判明することになります。
逆に,父が,子を隠しておくために認知をしていないケースもあります。
詳しくはこちら|死後の認知|全体|認知を回避or遅らせる背景事情|相続→金銭賠償
その場合は当然ですが,父の戸籍には認知の情報は載っていません。
5 弁護士による職務上請求では戸籍調査をしやすい
弁護士は,受任した案件の処理に必要な範囲で依頼者以外の者の戸籍の調査が認められています。
この職務上請求は,一般の戸籍の調査よりも大幅に手続(要件)が緩和されています。
<弁護士の職務上請求における戸籍調査の要件>
業務を遂行するために必要がある
※戸籍法10条の2第3項
ただし,単なる戸籍調査自体の依頼ということはできません。
何らかの権利や義務といった法的な問題が前提となります。
例えば兄弟であれば,理論的には扶養義務があります。
詳しくはこちら|一般的な扶養義務(全体・具体的義務内容の判断基準)
扶養の請求をする,またはされる(予定)という状況があれば,依頼を受けるということもあり得ます。
6 法務局の法定相続情報証明制度
相続の関係のしっかりした資料は,以前は戸籍(事項証明書)が唯一のものでした。
実際には,過去の戸籍(除籍謄本・改製原戸籍)など,多くの数の資料に分かれていることが多いです。
一般の方は読み解くだけでも苦労したり,読み違えたりすることがよくありました。
そこで,平成29年5月29日から,法務局(登記所)の法定相続情報証明制度が始まりました。
多くの戸籍の情報から,法定相続人の範囲を法定相続情報一覧図としてまとめ,これを法務局で保管するという制度です。
いったん作成すれば,法務局で認証印を押してくれます。
その後の登記手続などでは,この法定相続情報一覧図だけで足ります。つまり,多数の戸籍に関する資料から解放されるのです。
ただし,保管期間は約5年間と短く設定されています。
外部サイト|法務局|法定相続情報証明制度
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