【自筆性判断のプロセスと内容(間接事実・補助事実)(全体)】

1 自筆性(作成者)の判断の間接・補助事実(全体)
2 遺言の内容・記載の形式面(概要)
3 自筆性(自筆性)と自書能力の関係
4 作成可能性・偽造可能性の判断の方法
5 遺言者の言動の具体例
6 偽造想定者(被告)の言動の具体例
7 遺言書発見の経緯に関する判断要素

1 自筆性(作成者)の判断の間接・補助事実(全体)

遺言の自筆性,つまり作成者が誰かという判断が問題になるケースはよくあります。自筆性の全体的な事項は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺言の自筆性(自書性・作成者・偽造・変造の判断)(全体)
本記事では自筆性の認定・判断のプロセスについて説明します。専門的には間接事実・補助事実と言います。
まずは間接事実・補助事実の全体を分類します。

<自筆性(作成者)の判断の間接・補助事実(全体)>

あ 遺言の内容(後記※1
い 記載の形式面(後記※2

ア 筆跡の類似性・特徴イ 文章の体裁ウ 用紙・筆記具

う 遺言者の自書能力の存否・程度(後記※3
え 作成可能性,偽造可能性(後記※4
お 遺言者の言動・偽造想定者(被告)の言動(後記※5,※6)

遺言に至る経緯・動機・理由
遺言者と相続人or受遺者との人的関係・交際状況

か 遺言書の保管状況・発見の経緯(後記※7

※石田明彦ほか『遺言無効確認請求事件の研究(上)』判タ1194号p43

実際には,上記の項目のうち複数が判断の元となります。特に遺言の内容(あ)は,他の事情との整合性が判断結果に大きな影響を与えます。
上記の事項のそれぞれの内容については,以下,順に説明します。

2 遺言の内容・記載の形式面(概要)

『遺言の内容』と『記載の形式面』の判断については,多くの内容を含みます。ここでは概要だけまとめておきます。詳しい内容はそれぞれ別の記事で説明しています。

<遺言の内容・記載の形式面(概要)>

あ 遺言の内容(概要;※1)

遺言の内容は他の事情との整合性が主な判断の対象となる
詳しくはこちら|遺言の内容による自筆性判断のプロセスと内容や具体例

い 記載の形式面・筆跡(概要;※2)

主に筆跡が大きな判断要素となる
筆跡については筆跡鑑定による判断がメジャーである
ただし筆跡鑑定(結果)はそれ程重視されるわけではない
<→★筆跡鑑定

3 自筆性(自筆性)と自書能力の関係

『自書能力』は『自筆性』の判断の間接事実です(上記)。ネーミングも含めて間違えやすいところです。関係性・関連性をまとめます。自書能力についての内容は別の記事で説明しています。

<自筆性(自筆性)と自書能力の関係(※3)

あ 関係性

『自書能力』の位置付け
→『作成者(自筆性)』の認定における間接事実の1つである

い 実務的な関連性

作成者(自筆性)と遺言能力の主張について
両方ともほぼ同様の判断プロセスである
実際に関連付けて主張されることが多い
詳しくはこちら|自書能力の意味と判断要素や具体例
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p50

4 作成可能性・偽造可能性の判断の方法

作成可能性・偽造可能性は自筆性の判断の間接事実となります(前記)。判断の具体的な方法や構造をまとめます。

<作成可能性・偽造可能性の判断の方法(※4)

あ 判断の構造

遺言者・想定偽造者のそれぞれについて
遺言を作成する現実的・物理的な可能性を検討・比較する

い 遺言者による遺言書作成の可能性

次のような事情から判断する
ア 作成する時間的余裕の有無イ 実印を所持していた可能性

う 想定偽造者による遺言書偽造の可能性

ア 遺言書上の陰影の印鑑を利用した可能性 当該印鑑の紛失の有無
当該保管場所への出入りの有無
イ 遺言書の発見場所・発見経緯 保管の具体的状況
検認申立の経緯・申立人が誰か(後記※7
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p51

5 遺言者の言動の具体例

遺言者の言動は遺言の自筆性の判断の重要な間接事実です(前記)。典型的な具体例をまとめます。

<遺言者の言動の具体例(※5)

あ 記述

カレンダー・手帳に遺言者がメモした内容
例;遺言を作成・準備した旨の記載
→自書性を肯定する方向性

い 言動

遺言者が顧問弁護士に遺言書の作成方法を質問したこと
→自筆性を肯定する方向性
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p51

6 偽造想定者(被告)の言動の具体例

遺言無効確認訴訟では,偽造したと想定される者が特定されていることもあります。通常『被告』の立場になります。偽造が想定される者の言動は『偽装したorしない』の判断につながります。具体的な実例をまとめます。

<偽造想定者(被告)の言動の具体例(※6)

あ 遺言の真正を確信していない

遺言内容=子A(被告の1名)に全財産を相続させる
遺言者の死後
子Aが,他の相続人と共同で遺言者の預金の払戻しを受けた
→遺言の真正を確信している者の行動としては極めて不自然である
→自筆性を否定する事情

い 遺言を書き直させる宣言

最初の遺言の内容=『子Bに甲不動産を相続させる』
この時,子Aが内容の不服を述べ,遺言を書き直してもらう,などと述べていた
次の遺言の内容=『子Aに甲不動産を相続させる』
自筆性を否定する間接事実とした
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p51

7 遺言書発見の経緯に関する判断要素

自筆証書遺言が発見された経緯も,自筆性の判断の1つの要素となります(前記)。判断の方法と具体例をまとめます。

<遺言書発見の経緯に関する判断要素(※7)

あ 典型的な判断の方法

遺言書発見から検認に至る経緯が不自然
偽造想定者の説明する発見経緯が不合理
→自書性を否定する間接事実となる

い 不自然な経緯の具体例

遺言書が誰にも託されていなかった
遺言書の発見場所に関する当事者の供述に若干の食い違いがある
発見後検認まで一定程度の期間が経過していた

う 偽造の認定につながる事情の具体例

偽造想定者が検認を申し立てた
偽装想定者の説明する遺言書入手経緯が不合理である
例;遺言者から預かった経緯が不自然である
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p51

発見経緯は遺言が無効と判断する要素の1つなのです。逆に,遺言を預ける,預かる時には後から無効と判断されることがないように予防策をとっておくことが望ましいです。
詳しくはこちら|遺言作成時の注意(タイミング・変更理由の記載・過去の遺言破棄)

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