【自書能力の意味と判断要素や具体例】

1 『自書』『自書能力』の意味(概要)
2 『自書能力』の意味の解釈
3 自書能力の構成
4 自書能力に関する判断要素
5 遺言者の病状の具体例

1 『自書』『自書能力』の意味(概要)

遺言の自筆性(作成者)の判断の要素の1つに『自書能力』があります。本記事では『自書能力』について説明します。
このテーマでは,似ている用語・概念が複数出てきます。分かりにくいところなので,関係を整理します。

<『自書』『自書能力』の意味(概要)>

あ 『自書』の意味(概要)

遺言者が自筆で書くこと
詳しくはこちら|遺言の自筆性(自書性・作成者・偽造・変造の判断)(全体)

い 『自書能力』の意味(基本)

『自書』できる能力
『自書性(作成者の認定)』の間接事実となる
詳しくはこちら|自筆性判断のプロセスと内容(間接事実・補助事実)(全体)

2 『自書能力』の意味の解釈

『自書能力』については,最高裁判例が内容を詳しく示しています。

<『自書能力』の意味の解釈>

あ 基本的事項

遺言者が文字を知り(『イ』),かつ,これを筆記する能力(『ウ』)をいう
※最高裁昭和62年10月8日

い 『文字を知り』の意味

単に文字を知るだけではない
文字+構成される文章の一般的意味を理解することをいう

う 『これを筆記する能力』とは

書かれた文字が示している意味内容を理解できる程度を意味する
他人が判読できる程度に書くことができる能力までは必要ない
※魚住庸夫『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和62年度』法曹会p619

3 自書能力の構成

実務において自書能力の判断を行う際には,自書能力の中身を2種類に分けて考えると分かりやすいです。上記の解釈とは別の分類方法です。自書能力の構成を整理します。

<自書能力の構成>

あ 基本的事項

自書能力は次の『い・う』の2つの面に分類できる

い 精神能力的側面

日本では識字率が非常に高い
→精神能力的側面は,遺言能力と実質的に同一である

う 運動能力的側面

※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p50

4 自書能力に関する判断要素

自書能力の有無を判断する時に重要な事情をまとめます。

<自書能力に関する判断要素>

あ 遺言者の病状(後記※1
い 添え手をされた形跡

『添え手』については『自書』該当性でも問題となる
詳しくはこちら|自筆証書遺言の『自書』の解釈と判断基準や具体例
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p50

5 遺言者の病状の具体例

遺言者の病状は自書能力を判断する重要な事情です(前記)。病状から自書能力を判断する具体例をまとめます。

<遺言者の病状の具体例(※1)

あ 症状(診断名)

両変形性肘関節症・右尺骨神経麻痺

い 障害の程度

手指の知覚・筋力の低下がみられた
はしを用いて食事をすることも不自由な状態であった
しかし,まったく字を書くことができなかったわけではない

う 自書能力の判断

自書能力が肯定された
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p50

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