【死亡退職金のタイプ別の相続財産・特別受益該当性の判断の傾向】

1 死亡退職金のタイプ別の相続財産・特別受益該当性の判断の傾向
2 公務員の死亡退職金についての判断の傾向
3 労働基準法施行規則方式の死亡退職金についての判断の傾向
4 遺族・相続人方式の死亡退職金についての判断の傾向
5 受給権者の規定なしの死亡退職金についての判断の傾向
6 退職金の規定と慣行なしの退職金についての判断の傾向
7 死亡保険金を特別受益として認めた裁判例(概要)

1 死亡退職金のタイプ別の相続財産・特別受益該当性の判断の傾向

相続において,死亡退職金はいろいろな法的問題があります。法的問題のうち,死亡退職金が相続財産特別受益にあたるかどうか,ということについては,原則としては否定されますが,事情によっては例外的に肯定されます。
詳しくはこちら|相続における死亡退職金の扱いの全体像(相続財産・特別受益・遺留分)
より具体的にいうと,死亡保険金が支給される条件の内容(タイプ)によって判断が決まってくるのです。そこで,本記事では,どのようなタイプの死亡退職金についてどのような判断がされるか,ということを説明します。

2 公務員の死亡退職金についての判断の傾向

まずは死亡退職金の内容が公務員方式のケースについて,判断の傾向をまとめます。

<公務員の死亡退職金についての判断の傾向>

あ 国家公務員の死亡退職手当の受給権者

ア 第1順位 配偶者・内縁者
イ 第2順位 子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹のうち
主として職員の収入によって生計を維持していた者
ウ 第3順位 親族のうち
主として職員の収入によって生計を維持していた者
エ 第4順位 子・父母・祖父母・兄弟姉妹のうち
第2順位に該当しない者
※国家公務員退職手当法2条1項,2条の2第1項,11条

い 死亡退職金の解釈の傾向

死亡退職金・退職手当が次の『ア・イ』により支給される場合
→相続財産・特別受益として否定する傾向がある
ア 国家公務員退職手当法イ 『ア』と類似する内容を定める法令・内部規程

う 最高裁判例

『い』の内容の死亡退職金について
→民法上の法定相続とは異なっている
→受給者固有の権利である=相続財産ではない
特別受益にも該当しない
※最高裁昭和55年11月27日
※最高裁昭和58年10月14日

え 下級審裁判例

『い』の内容の死亡退職金について
→相続財産・特別受益として否定した
※大阪家裁昭和40年3月23日;特に理由なし
※東京家裁昭和44年5月10日;特に理由なし
※東京家裁昭和55年2月12日;退職金の性格より
※東京高裁昭和55年9月10日;退職金の性格より
※福岡家裁昭和41年9月29日

3 労働基準法施行規則方式の死亡退職金についての判断の傾向

労働基準法施行規則に遺族補償についてのルールがあります。これと同じ方式を導入しているケースについての解釈の傾向をまとめます。

<労働基準法施行規則方式の死亡退職金についての判断の傾向>

あ 遺族補償の受給者の規定

ア 第1順位 配偶者・内縁者
イ 第2順位 子・父母・孫・祖父母のうち次のいずれかに該当する者
・労働者の収入により生計を維持していた者
・労働者と生計を同一にしていた者
ウ 第3順位 子・父母・孫・祖父母のうち第2順位に該当しない者
兄弟姉妹
※労働基準法施行規則42条,43条

い 死亡退職金の判断の傾向

死亡退職金について
『あ』の遺族補償と同趣旨の内部規程がある場合
→相続財産・特別受益として否定する傾向がある

う 見解

『い』の死亡退職金について
→国家公務員退職手当法と同様である
→受給者固有の権利である=相続財産ではない
特別受益にも該当しない
※糟谷忠男『死亡退職金』
※小山昇ほか『遺産分割の研究』判例タイムズ社p354

4 遺族・相続人方式の死亡退職金についての判断の傾向

死亡退職金の受給権者を『遺族・相続人』などと規定しているケースも多いです。このような不明確な規定があるケースにおける判断の傾向をまとめます。

<遺族・相続人方式の死亡退職金についての判断の傾向>

あ 受給権者の規定

死亡退職金について
単に『遺族』or『相続人』に支給するとのみ定める内部規程

い 裁判所の判断(最高裁)

『あ』の死亡退職金について
→受給者固有の権利である=相続財産ではない
特別受益にも該当しない
※最高裁昭和60年1月31日

う 裁判所の判断(下級審)

『あ』の死亡退職金について
→相続財産として扱う
※大阪地裁平成22年9月10日

5 受給権者の規定なしの死亡退職金についての判断の傾向

従業員が死亡した場合『退職金』を誰に渡すかが規定上明記されていないこともあります。その一方で,退職金の支給自体は規定や慣行で決まっているケースの判断の傾向をまとめます。
この場合の解釈論をまとめます。

<受給権者の規定なしの死亡退職金についての判断の傾向>

あ 退職金自体の支給

死亡退職金の支給慣行はある
受給権者に関する明文の規定がない
→受給権者の慣行の有無によって扱いが異なる傾向がある

い 受給権者の慣行あり

死亡退職金の受給権者の慣行があった
慣行により定められた受給権者が死亡退職金を受給した
→受給者固有の権利である=相続財産ではない
特別受益として認めると『受給権者の生活保障機能』を没却する
→特別受益にも該当しない
※大阪家裁昭和53年9月26日

う 『受給権者』の慣行なし

死亡退職金の受給権者の慣行がなかった
雇用主が個別的に判断した者に支給した
→死亡退職金を相続財産として扱う
※東京地裁平成17年4月27日

6 退職金の規定と慣行なしの退職金についての判断の傾向

そもそも退職金の支給自体についての規定や慣行がない会社も多いです。その場合でも,個別的に,死亡退職金を支給することもあります。
この時の解釈の傾向をまとめます。当然ですが,個別的事情で大きく変わることになります。

<退職金の規定と慣行なしの退職金についての判断の傾向>

あ 『退職金』自体の支給

次の『ア・イ』のいずれもない
ア 退職金の支給規定イ 退職金を支給する慣行

い 判断の傾向

『あ』の状況で退職金を支給した場合
→退職金の法的性格は個別事情により判断される

う 裁判所の判断(参考)

個別的事情を考慮した
→受給者固有の権利であると判断した
=相続の対象財産・特別受益には該当しない
当然,個別的事情により結果は異なる
※最高裁昭和62年3月3日

7 死亡保険金を特別受益として認めた裁判例(概要)

以上の説明で出てきていない裁判例で,死亡保険金の支給条件(タイプ)を(ほぼ)考慮しないで特別受益として認めたというものがいくつかあります。これも参考となります。そのような裁判例は別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|死亡退職金を特別受益として認めた裁判例(タイプ分けなし)

本記事では,死亡退職金の支給条件(タイプ)によって相続財産や特別受益としてのどのような扱いとなるか,ということを説明しました。
実際には,個別的な事情により,法的扱いや最適な対応が違ってきます。
実際に相続における死亡退職金の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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