【成年後見人の制度の基本(活用の目的や具体例と家裁の選任手続)】
1 成年後見の活用目的は各種手続・契約締結・財産流出防止
『高齢で判断能力が低下した』場合に、成年後見制度が利用できます。
『成年後見開始の申立』は義務付けられているわけではありません。
取引や公的手続を利用する前提として成年後見を利用するのが一般的です。
また、悪徳商法に応じてしまうことを防止する、という活用法もあります。
理論的には『意思能力』」がない場合、法律行為を行ったとしても『無効』となります。
しかし、公示や立証の点で不便があるのです。
成年後見制度の方が確実、安全と言えます。
詳しくはこちら|判断能力が不足していると、意思能力なし→無効となる
成年後見制度を利用する具体的な状況の例をまとめておきます。
成年後見制度の活用・具体例
(ア)不動産や預金などの財産の管理・処分
(イ)介護サービスや施設への入所契約
(ウ)遺産分割(協議)
(エ)悪徳商法などによる被害防止
2 成年後見などの利用動機の統計
成年後見・保佐・補助の制度を利用する動機の統計データを紹介します。
成年後見など×利用動機|平成26年
※複数該当あり
※最高裁判所事務総局家庭局『成年後見関係事件の概況』
前述の具体的状況を形式的に分類した様子、と言えます。
3 後見・保佐・補助開始の審判の申立人の範囲
成年後見制度を利用する場合、家庭裁判所に後見開始の審判申立を行います。
家事事件の分類上「審判対象事件」のうち「別表第1事件」とされます。
詳しくはこちら|家事事件(案件)の種類の分類(別表第1/2事件・一般/特殊調停)
申立人になれる者は法律上規定されています。主に、一定の近親者で、本人も含まれます。また、検察官も含まれますし、一定の状況であれば市区町村長が申し立てることもできます。
なお、後見だけではなく保佐、補助についても申立人の範囲は同じです。
後見・保佐・補助開始の審判の申立人の範囲
あ 本人
い 配偶者
う 4親等内の親族
え 後見人、保佐人、補助人
お 後見監督人、保佐監督人、補助監督人
か 検察官
※民法7条、11条、15条
き 市区町村長
※老人福祉法32条、地方自治法281条2項
申立人の中に利害関係人は入っていません。たとえば、提訴したいのに、相手(被告)に判断能力がないような場合は、民事訴訟法の特別代理人の制度を利用することになります。
詳しくはこちら|訴訟無能力者への提訴では民事訴訟法の特別代理人の選任ができる
4 判断能力低下の事前準備手段(参考)
成年後見などの制度は『判断能力が低下した後』の事後的対策です。
この点、事前に準備をしておくと、より有利な方法を取ることができます。
これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|認知症→財産デッド・ロック|基本|誰も財産を動かせない・解決・回避策
5 後見開始の申立手続(面接システム)
後見開始の審判を急いで行う、という局面は少なくないです。
この時に、時間がかかる要素は、診断書の取得と裁判所の面接の日程設定です。
診断書は、医師に診察してもらい、結果を書面にしてもらうので、一定の時間を要します。
また、裁判所によっては、『予約』と『面接』を用意しています。
そうするとさらに一定の日数を要します。
東京家裁の場合、申立内容を確認する『面接』の日程を設けています。
事前の電話予約から、概ね2~3週間先に入れられる、ということが多いです。
その時の空き状況によって異なります。
また、裁判所によっては、このような『事前予約(+面接日程)』という制度を取り入れてない場合もあります。
6 後見人の選任に関する家裁から関係者への照会
後見開始の審判では家裁が後見人を選任します。
具体的な手続としては、関係者への照会が行われます。
詳しくはこちら|後見開始審判における後見人の人選(判断要素・手続・意向照会)
近親者間で対立しているケースもよくあります。
その場合は最終的に利害関係のない専門家が(後見人または後見監督人として)選任されることが多いです。
詳しくはこちら|後見開始審判において親族が後見人に選任される状況(専門職が選任される基準)
7 後見開始の審判の取下には家裁の許可が必要
例えば、近親者間の対立が表面化すると当初想定した後見人が選任されなくなります。
そこで、後見開始の審判を申し立てた後に『撤回したい』というニーズが生じます。
この点『取下』については、現在では明確に『家裁の許可が必要』とされています。
後見開始の審判における取下の制限
あ 法改正前
以前は裁判例で見解が分かれていた
い 平成23年家事事件手続法制定後
後見等の申立の取下げ
→家裁の許可が必要
審判前も含む
う 施行日
平成25年1月1日施行
※家事事件手続法121条
申立の前に最新のルールをしっかりと把握・確認しておかないと困った状況になりかねません。
8 裁判手続における民事訴訟法の特別代理人の選任(概要)
成年後見人がいない場合は、以上の説明のように、裁判所に選任してもらいます。
これが原則ですが、各種の裁判手続をスピーディーに行わなくてはならない状況もあります。
そこで、救済的に、特定の裁判手続内限定の代理人を選任する制度もあります。
民事訴訟法の特別代理人(の選任)という制度です。
権限が小さい分、選任手続もスピーディーです。
詳しくはこちら|訴訟無能力者への提訴では民事訴訟法の特別代理人の選任ができる
本記事では、成年後見人の制度の基本的な内容を説明しました。
成年後見人を活用する状況では、以上の説明のように、細かい解釈や運用を熟知した上で、最適なタイミングで最適な手続を的確に遂行する必要があります。
実際に成年後見人の制度の活用をお考えの方や選任後の状況について疑問をお持ちの方は、本記事の内容だけで判断せず、法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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