【不在者財産管理人が選任される状況(不在者の解釈と具体例)】

1 不在者財産管理人が選任される具体的状況

住所や居所を去った者についての財産管理人を選任する制度があります。
詳しくはこちら|不在者財産管理人の制度の全体像(選任要件・手続・業務終了)
行方不明や生死不明となった方については、不在者として財産管理人が認められます。
しかし、失踪宣告とは違うので、もっと緩い基準で、不在者財産管理人は選任されます。
本記事では、不在者の解釈や具体例、つまり、実際に不在者財産管理人の選任を活用できる状況を説明します。

2 「不在者」の意味

家庭裁判所が不在者財産管理人を選任するのは、文字どおり「不在者」にあたる場合です。ここで「不在者」とは、従来の住所(や居所)を去って、戻って来る見込みがない者のことをいいます。
なお、住所(や居所)は生活の本拠、という意味です。
詳しくはこちら|民法上の『居所』(規定・意味・住所との違い)

「不在者」の意味

あ 昭和56年東京地判

不在者の財産管理制度は、従来の住所または居所を去つて容易に帰来する見込みのない者(不在者)が従来の住所または居所に財産を放置し、財産の管理人を置かなかつたかあるいは置いても本人の不在中にその権限が消滅した場合に、不在者の残務を整理し、もつて本人の利益のみならず同人の相続人・債権者など利害関係人の利益を保護するため、法が設けた利益制度である。
※東京地判昭和56年10月23日

い 新注釈民法

不在者とは、従来の住所・居所(→§22、§23)を離れて、容易に帰る見込みのない者をいうとされているが、
今日の交通・通信事情を考えれば、これに加えて、「その結果、従来の住所又は居所にあるその者の財産が、管理されないで放置される状態にあること」も要件に付け加えるべきだと指摘されている(川島82頁。幾代85頁、五十嵐ほか75頁〔泉久雄])。
※岡孝稿/山野目章夫編『新注釈民法(1)』有斐閣2018年p588

う 新版注釈

不在者とは、従来の住所または居所を去って容易に帰来する見込みのない者をいうと理解されている。
※田山輝明稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p441

3 不在(者)を示す資料の例

不在者財産管理人を選任するのは、家庭裁判所です。家事審判の手続として、不在者といえるか(などの要件)を判断した上で選任の処分(審判)をします。申立人としては、郵便物が返送されたものや捜索願を出した資料などを裁判所に提出します。

不在(者)を示す資料の例

通常、不在者宛て返送郵便物、捜索願受理証明書、不在者の親族による陳述書(聴取書)などとされているが、不在が東日本大震災による場合には行方不明者届出書、未発見者証明書で代替できるという。
※岡孝稿/山野目章夫編『新注釈民法(1)』有斐閣2018年p589

4 不在者の判断が問題になる状況の典型例

前記のように「不在者」にあたるのは、従来の住所または居所があって、それを去ったことに加えて、帰来する見込みがないと評価できる場合です。実際にこれにあたるかどうかが問題となりやすい状況をまとめておきます。

不在者の判断が問題になる状況の典型例

あ 従来の住所・居所の不明→否定

従来の住所・居所自体が不明である場合
→不在者財産管理人の選任はできない
(従前の住所または居所が判明していることが要件となる)
※長崎家佐世保支審昭和43年3月16日

い 新たな住所・居所の必要性→否定

不在者が他に住所または居所を定めたか否かは問わない

う 行方不明・生死不明との関係→否定

ア 行方不明・生死不明→要件ではない 日本民法では、不在者に関する規定が「失踪」の節に置かれているため、その者の「行方不明」「生死不明」が要件のように思いがちであるが、これは選任請求の要件ではない
※田山輝明稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p441
例=海外への移住者も不在者となりうる
イ 「連絡を受ける」(生存確認)だけ→否定されない 連絡を取る方法が不在者とされる者からの一方的なものだけであり、こちらからは連絡先も所在場所も分からない場合には、生存確認ができているに過ぎないので、「不在者」に該当し得ます
※尾島史賢ほか編『相続人不存在・不在者 財産管理の落とし穴』新日本法規出2020年p232

え 戸籍の記録の必要性→否定

戸籍の記録がない者について
例=元樺太在住者
→不在者財産管理人の選任はできる
※昭和28年5月19日最高裁家庭局長回答

お 一時的滞在地を去った者→両方の見解

単なる滞在地を去りたる者(ホテルの滞在者等)が、この要件を満たすか否かも問題となる。
もちろん住所や居所がわかっていれば、管理人選任の必要性についての吟味が必要である。
容易に連絡がとれるのであれば、財産管理人を選任する必要性は認められない
しかし、住所等が知れない場合には、直ちに遺留品を管理する必要が生じる。
このような者をも不在者に含める見解もある(大谷美隆・失踪法論〔昭8〕683)。
※田山輝明稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p441、442

5 高齢者・認知症患者の不在者財産管理人

高齢者や認知症の方が施設に入居したケースがあります。行方不明や生死不明ではありませんが、不在者に該当する、という見解があります。

高齢者・認知症患者の不在者財産管理人

あ 管理者を希望する認知症患者の事案

Aは老人施設などに入所中である
Aは相当に高齢である
→容易に帰来する見込みはない
当初は十分な判断能力があったが認知症が始まった
Aも利害関係者もAの財産管理人の選任を望んでいる

い 不動産の管理ができない認知症患者の事案

Aは高齢者であり子供がいない
認知症のため自立生活が困難となった
A所有の土地・建物を放置した状態で高齢者ホームに入居している
土地・建物は荒れ放題となりそうである

う 不在者財産管理人の選任

『あ・い』のケースにおいて
施設に本人Aの居所はある
一方『従来の住所』を去っている
→『不在者』であることの障害にはならない
→不在者財産管理人の選任は可能である
※田山輝明稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p443〜445

6 知的障害者の不在者財産管理人(親亡き後)

知的障害がある方について、不在者財産管理人が選任されることもあります。いわゆる親なき後問題というような状況が典型です。

知的障害者の不在者財産管理人(親亡き後)

あ 施設入居中の重度知的障害者の事案

Aは重度の知的障害を持つ成年者である
東京に居住している
面倒をみてくれていた親が死亡した
福祉事務所に施設入所を希望した
東北地方にある東京都の関連施設に入所することになった
東京には親が残してくれた相当な財産を有している
従来住んでいた土地・建物の管理が必要となった

い 不在者財産管理人の選任

Aは従来の住所を去っている
→不在者財産管理人の選任は可能である
※田山輝明稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p444〜446

7 長期の家出人の不在者財産管理人

家出した方について不在者財産管理人が選任されることもあります。

長期の家出人の不在者財産管理人

あ 長期の家出の事案

夫Aが借金のために家出した
妻Bに『借金取りが来たら適当に対応してくれ』と言い残した
Aは借地人である
地主はAに対して地代不払いを理由とする解除を通知した
地主は建物収去土地明渡の訴えを提起した
請求を認容する判決が言い渡された
妻Bは、弁護士に上訴を委任した

い 委任の効果(否定)

AがBに与えた任意代理権について
→日常家事の範囲を超える事項については及ばない
Bは訴訟の委任をすることはできない

う 不在者財産管理人の選任の指摘

不在者財産管理人の選任などの法的救済方法をとるべきである
=家出をした者は不在者に該当することがある
※東京高裁昭和46年1月28日

本記事では、「不在者」の解釈や具体例、つまり不在者財産管理人が選任される状況について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
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