【所得税におけるみなし譲渡所得課税(低額譲渡・所得税法59条)】

1 無償での資産移転における譲渡所得(原則論)
2 無償での資産移転における譲渡所得(原則論)
3 みなし譲渡所得課税の規定
4 みなし譲渡所得課税の趣旨
5 個人への無償の資産移転における所得価額の引継ぎ

1 無償での資産移転における譲渡所得(原則論)

低い金額で財産を売却した場合には特殊な規定によって課税されることがあります。
代表的なものは,低額譲渡によるみなし贈与課税です。
詳しくはこちら|低額譲渡(低廉売買)によるみなし贈与課税の基本(規定と実務的判断)
これとは別に所得税に関する低額譲渡の課税もあります。
本記事では,低額譲渡によるみなし譲渡として所得税が課税されることについて説明します。

2 無償での資産移転における譲渡所得(原則論)

まず,所得税の根本的な仕組みとして,無償での資産の移転については収入(金額)として扱いません。
そのため,原則として譲渡所得がないので(譲渡)所得税も発生しないことになります。

<無償での資産移転における譲渡所得(原則論)>

あ 収入金額の算定

無償での資産の移転について
例=贈与・相続
→『収入金額』に該当しない
※所得税法36条1項

い 譲渡所得

無償での資産の移転について
→原則として譲渡所得は生じない
例外的に譲渡所得課税が生じることがある
例=みなし譲渡課税(後記※1

3 みなし譲渡所得課税の規定

無償での資産の譲渡について,例外的にみなし譲渡として所得税が課税されることもあります。
みなし譲渡所得課税の規定の内容をまとめます。

<みなし譲渡所得課税の規定(※1)

あ みなし譲渡所得課税

譲渡所得の基因となる資産について
『い』のいずれかによる移転が生じた場合
時価により資産の譲渡があったものとみなす
=譲渡所得課税を行う

い みなし譲渡の範囲

ア 法人に対して贈与or遺贈したイ 法人に対して著しく低い価額の対価で譲渡した 著しく低い価額とは,時価の2分の1未満のことである
ウ 個人に対して限定承認に係る相続or包括遺贈による資産の移転があった ※所得税法59条1項,所得税法施行令169条

譲渡を受ける者が個人か法人かで扱いが違っています。
一見すると複雑ですが,みなし譲渡として課税する本質的な理由(趣旨)が分かると理解できます。

4 みなし譲渡所得課税の趣旨

みなし譲渡所得として所得税が課税される本質的な理由をまとめます。
要するに,無償での資産移転があった場合,本来であればキャピタルゲインの課税の繰り延べがなされます(後記)。
しかし,税法の構造上,課税の繰り延べができないことがあります。そのような場合に限って,例外的に(仕方なく)その時点で課税するという趣旨なのです。

<みなし譲渡所得課税の趣旨>

あ 特殊事情(前提)

法人への贈与・相続では技術的に課税の引継ぎができない
限定承認では財産の清算が行われる

い 例外的な課税

『あ』の場合はキャピタルゲイン課税の繰り延べができない
取得価額・時期の引継ぎ(後記※2)のことである
→例外的にキャピタルゲイン課税を実行する
※植松守雄編著『注解 所得税法 5訂版』大蔵財務協会2011年p739

5 個人への無償の資産移転における所得価額の引継ぎ

所得税の基本的な設計として,無償で資産が移転した場合には,課税の繰り延べが行われます(前記)。
この原則的な扱いの内容をまとめます。

<個人への無償の資産移転における所得価額の引継ぎ(※2)

あ 個人への贈与・相続における譲渡所得税

個人に対する贈与や相続については
贈与者・被相続人に対して譲渡所得の課税は行わない

い 所得価額・所得時期の引継ぎ

受贈者・相続人は前所有者の取得価額・取得時期を引き継ぐ

う 制度の趣旨

新所有者が将来資産を譲渡した時点において
前所有者の保有期間中のキャピタルゲインを含めて譲渡所得の課税を行う
※池本征男著『所得税法〜理論と計算〜11訂版』税務経理協会2017年p115
※植松守雄編著『注解 所得税法 5訂版』大蔵財務協会2011年p738

本記事では,みなし譲渡所得課税について説明しました。
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