【信託への遺留分制度の適用に関する条文の文言解釈】
1 信託への遺留分制度の適用の文言解釈
2 遺留分の条文の文言と信託の関係
3 『贈与・遺贈』としてみる見解
4 無償行為を遺留分減殺制度の対象とする見解
1 信託への遺留分制度の適用の文言解釈
信託契約や遺言信託についても,遺留分侵害額請求や減殺請求をすることは,結論としては可能です。
詳しくはこちら|信託への遺留分減殺請求は認められる(信託と遺留分の解釈の基本・平成30年改正前後)
この点,遺留分に関する民法の条文には,一見,信託を当てはめることができません。
そこで本記事では,文言的な解釈について説明します。
2 遺留分の条文の文言と信託の関係
まず,遺留分に関する基礎となる条文の規定を押さえておきます。
『遺贈・贈与』が遺留分減殺請求の対象として規定されています。
信託はストレートには該当しません。
<遺留分の条文の文言と信託の関係>
あ 条文規定(引用)
遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
※民法1031条
い 条文上の遺留分減殺の対象
条文では遺留分減殺請求の対象は『遺贈』『贈与』と規定されている
※民法1031条
う 解釈上の問題
信託の設定は,法的には遺贈でも贈与でもない
→解釈(学説)は大きく2種類に分けられる(後記※1,※2)
3 『贈与・遺贈』としてみる見解
まず,信託を『贈与』や『遺贈』としてみる,という解釈についてまとめます。
<『贈与・遺贈』としてみる見解(※1)>
あ 基本的な考え方
信託設定を『贈与・遺贈』のいずれかとして捉える
い 信託の種類と該当する行為
信託の種類 | 該当する行為 |
一般の生前信託 | 受益者への『贈与』としてみる |
遺言代用信託 | 受益者への『(死因)贈与』としてみる |
遺言信託 | 受益者への『遺贈』としてみる |
※能見善久稿『財産承継的信託処分と遺留分減殺請求』/『信託の理論的深化を求めて』トラスト未来フォーラム2017年p123
4 無償行為を遺留分減殺制度の対象とする見解
次に,無償行為を広く遺留分減殺請求の対象とする見解もあります。
遺留分減殺の対象を抽象化して広く捉える考え方です。
条文の文言から離れるという難点(批判)もあります。
<無償行為を遺留分減殺制度の対象とする見解(※2)>
あ 基本的な考え方
相続財産から『無償』で財産が逸失する行為すべてが遺留分減殺制度の対象である
→無償行為を広く対象とする
い 信託による無償での利益の移転
信託財産にかかる経済的利益は,実質的には,委託者から受益者に移転する
(自益信託を除く)
→遺留分減殺請求の対象とする
う 難点
条文の文言から離れた解釈となる
結局,減殺の順序の判断において『贈与・遺贈』のどれかに該当させることになる
え 参考(他の無償行為)
『贈与・遺贈』に該当しない無償行為を遺留分減殺の対象とする一般的な見解がある
生前の債務免除を遺留分減殺の対象とする見解もある
ただし,これを判断した判例はない
※能見善久稿『財産承継的信託処分と遺留分減殺請求』/『信託の理論的深化を求めて』トラスト未来フォーラム2017年p123,124
本記事では,信託契約や遺言信託に対して遺留分減殺請求をすることの解釈論のうち条文の文言に関するものを説明しました。
信託と遺留分の問題については,複数の解釈論が混在しており,統一的な見解がない状態です。
実際に信託契約や遺言信託を利用しようとしている方や,既に遺留分侵害が生じる問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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