【負担付遺贈・遺言|負担の履行請求・遺言取消請求申立・負担の上限】
1 遺言に『負担』を付けられる
2 負担付遺贈・相続させる遺言」の具体例
3 負担付遺贈の履行請求
4 負担の履行請求権者
5 負担の不履行に対する遺言取消請求
6 負担付遺贈における負担の上限
7 遺留分や限定承認による負担の上限の変動
8 遺贈の放棄による負担の解消(参考)
9 負担付「相続させる」遺言の履行請求・取消請求
1 遺言に『負担』を付けられる
遺言の内容に負担を付けることは法律上認められています。
ここで負担が付いている遺言内容(条項)は大きく2種類に分けられます。
<負担を付ける遺言の条項>
あ 遺贈
い 遺産分割方法の指定
相続人のうち特定の者に「相続させる」という条項
「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)とも呼ぶ
この2つの種類の遺言事項の基本的な内容は、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺言による財産の承継の種類=相続分・遺産分割方法の指定・遺贈・信託
このどちらに負担をつけた場合でも、基本的には同じような扱いになります(後述)。
2 負担付遺贈・相続させる遺言」の具体例
遺言の条項に負担を付ける例を示しておきます。
(1)負担付遺贈
<負担付遺贈の例>
あ 背景事情|例
遺言作成において『承継させる財産のアンバランス』を解消したい
=配分に開きが出てしまうことを解消・回避する
い 条項例|相続人間のアンバランス解消
◯◯株式会社の株式全部を相続人甲に遺贈(相続)させる。
ただし、相続人甲はこの遺贈の負担として、相続人乙と相続人丙にそれぞれ金2000万円を支払う。
う 条項例|相続人以外へのサポート
甲にA土地を遺贈する。
代わりにB(遺言者の親族など)に100万円を支払わなければならない。
(2)負担付「相続させる」遺言の例
<負担付「相続させる」遺言の例>
甲(相続人)にA土地を相続させる。
代わりにB(他の相続人など)に100万円を支払わなければならない。
3 負担付遺贈の履行請求
遺言というのは、遺産を承継させることが本質です。
そこで、受贈者への履行請求は本質から外れるという発想もあります。
しかし、条文上、履行請求は認められています(民法1027条)。
4 負担の履行請求権者
負担付遺贈の負担の履行を請求できる者は、条文上次のように規定されています。
<負担の履行請求権者>
あ 相続人
※民法1027条
い 遺言執行者
広範な職務権限に含まれると解釈されている
※民法1012条
う 負担の受益者
統一的な見解はない
<『負担の受益者』についての近年の有力説>
あ 有力な見解
ア 履行請求
『負担の受益者』が『受益の意思表示』をすることによって
→『負担の履行請求』をすることができる
イ 遺言取消請求
負担の受益者は、家庭裁判所への『遺言取消請求申立』はできない
※民法1027条;条文上『相続人』だけが記載されている
い 元となる考え方
ア 負担付遺贈;民法553条イ 第三者のためにする契約;民法537条~539条
この見解でも『遺言取消請求』は否定されています。
5 負担の不履行に対する遺言取消請求
負担付遺贈の『負担』が履行されない場合の対策が制度になっています。
<負担の不履行に対する遺言取消請求>
あ 前提事情
負担付遺贈の『負担』について、相続人が受贈者に催告をした
受贈者が催告に応じない
い 相続人の対抗手段|遺言取消請求
家庭裁判所に『遺言の取消請求』を申し立てる
う 家庭裁判所の審査
受遺者が『負担』を履行していないことを確認する
え 遺言取消決定の効果
遺言のうち『対象となる負担付遺贈の条項』が無効となる
※民法1027条
一般的な契約における『債務不履行解除』と同じような制度です。
6 負担付遺贈における負担の上限
遺言の本質は、遺産を移転させる、というのものです。
プラス財産の移転、という趣旨がメインなのです。
『実質的にマイナスの負担が押し付けられる』というのは本質とはずれています。
そこで条文上『負担の上限』が規定されています。
<負担付遺贈における負担の上限>
負担付遺贈の『負担』の上限
『遺贈の目的の価額』
※民法1002条
<負担付遺贈の負担の上限の具体例>
あ 遺言内容
『甲にA土地を遺贈する。代わりに(遺言者の)妻に5000万円を支払わなければならない』
い 評価額
A土地の価値=1000万円
↓
う 結果
甲は1000万円だけを支払えば良い
甲はA土地を取得できる
7 遺留分や限定承認による負担の上限の変動
一般的に、遺贈については、後から覆されることもありえます。
相続人が限定承認や遺留分の請求(減殺請求か侵害額請求)を行った場合です。
詳しくはこちら|相続承認と相続放棄|承認には単純承認と限定承認がある|熟慮期間・伸長の手続
詳しくはこちら|遺留分の権利・効果の法的性質(平成30年改正による金銭債権化)
このように、相続の処理の一環として、遺贈の実質的な内容に変更が生じる場合があります。
この場合は、変更後の状況を下に負担の上限を算定することになっています(民法1003条)。
<負担付遺贈の負担の変更の具体例>
あ 遺言内容
『甲にA土地を遺贈する。代わりに(遺言者の)妻に5000万円を支払わなければならない』
い 評価額
A土地の価値=1000万円
う 相続開始後の状況変化
遺言者死亡後、相続人が甲に遺留分減殺請求を行った
↓
え 結果
甲は相続人に代償金として300万円を支払うことになった
甲は、遺言者の妻に700万円だけを支払えばよいことになる
8 遺贈の放棄による負担の解消(参考)
遺贈を受ける者から『遺贈に応じたくない』と思うことはあります。
そのような場合、遺贈については放棄ができることになっています。
次に、典型的な遺贈の放棄の理由、効果、手続を説明します。
<遺贈の放棄|まとめ>
あ 遺贈に応じたくない理由の例
ア 負担付遺贈で『負担』が重いイ 財産の承継、保有による『管理コストの負担』を避けたいウ 純粋な感情面で受け取りたくない
い 遺贈の放棄の効果
『遺贈=財産の承継』・『負担』のいずれも効力を生じない
う 遺贈の放棄の『方法』
ア 理論面
『通知』(意思表示)だけで良い
家裁への申立などの手続は規定されていない
イ 実務的な方法
『内容証明郵便』で相続人に通知を発送する
→明確化・証拠化として確実になる
※民法986条
9 負担付「相続させる」遺言の履行請求・取消請求
以上のような、負担の履行請求と(履行しない場合の)取消請求は、条文上、遺贈が対象となっています。では、「相続させる」遺言に負担がついているケースではどうでしょうか。統一的な見解はないですが、下級審裁判例としては、類推適用を認める見解が採用されています。実務では、この見解が採用される傾向が強いといえます。
<負担付「相続させる」遺言の履行請求・取消請求>
負担付遺贈については、催告後、相当期間内に履行がないときは、家庭裁判所に取消請求をすることが認められているところ(民法1027条)、本件遺言は、負担付きの「相続させる」旨の遺言であり、遺産分割方法の指定をしたもので遺贈とは異なるものの、その権利移転の効果は遺贈に類似するものであるし、遺言者の意思からすれば同条の類推適用を認めるべきである。
※仙台高決令和2年6月11日
本記事では、負担付の遺贈や「相続させる」遺言の履行請求や取消請求について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
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