【信託財産の種類ごとの分別管理の方法(特定性の内容)】
1 信託財産の種類ごとの分別管理の方法(特定性の内容)
2 信託法の規定上の分別管理の方法
3 計算を明らかにする方法による分別管理(金銭・預金)
4 不動産の分別管理
5 動産の分別管理
6 債権の分別管理
7 特許権・実用新案権・意匠権・商標権の分別管理
8 特許を受ける権利の分別管理
9 著作権の分別管理
10 営業秘密・ノウハウの分別管理
1 信託財産の種類ごとの分別管理の方法(特定性の内容)
信託の受託者は,信託財産を他の財産と分別して管理する義務があります。
詳しくはこちら|信託の受託者の義務(分別管理・帳簿作成・報告義務)
また,分別管理義務を履行していることにより,倒産隔離の効果が生じます。
詳しくはこちら|信託財産の倒産隔離効(独立性)の要件(特定性・対抗力)
さらに,分別管理が信託の成立の判断に影響するという見解もあります。
詳しくはこちら|契約による信託の成立の要件・判断基準(信託の性質決定)
このように,いろいろな場面で,信託財産の分別管理が問題となります。この点,分別管理の内容は,信託財産の種類によって異なります。
本記事では,信託財産の種類ごとの分別管理の方法(内容)を説明します。
2 信託法の規定上の分別管理の方法
まず,信託法には,分別管理の方法を規定する条文があります。
登記や登録などの公示が可能な財産であれば,信託(財産)という登記や登録をします。
このような公示制度がない財産では,区別・識別できるような状態で保管することになります。金銭や債権のように物理的な識別ができない(難しい)ものもあります。その場合は帳簿などの記録によって識別できるようにします。
<信託法の規定上の分別管理の方法>
あ 信託の登記・登録ができる財産
信託の登記・登録によって分別(管理)する(後記※1)
い 信託の登記・登録ができない財産
動産(金銭を除く) | 外形上区別することができる状態で保管する |
金銭・その他 | 『その計算を明らかにする方法』 |
※信託法34条
3 計算を明らかにする方法による分別管理(金銭・預金)
信託財産である金銭や預金(債権)の分別管理の方法として,信託法の条文には,計算を明らかにする方法と規定されています(前記)。
その具体的な内容は,信託という表記を含めた名義の預金口座で管理するというものが一般的です。1つの信託に1つの専用預金口座であればこれだけで済みますが,複数の信託で1つの預金口座を用いるようなケースでは,帳簿の記録によって内訳が分かるようになっている必要があります。
<計算を明らかにする方法による分別管理(金銭・預金)>
あ 預金による金銭の特定
ア 預金口座の名義
信託財産専用の預金口座を設けて,口座の入出金として管理する
預金口座名義に『信託口(しんたくぐち)』を付ける方法が好ましい
→多くの金融機関でこの名義を認めている
※遠藤英嗣『新しい家族信託』日本加除出版p98
イ 通帳・届出印の保管
通常や届出印は物理的に隔離しておくことが望ましい
例=金庫・封筒にまとめておく
※遠藤英嗣『新しい家族信託』日本加除出版p98
い 帳簿による金銭の特定
受託者の帳簿において信託財産に属する金銭の収支・現在残高を明確にしておく
帳簿(信託財産の目録(リスト))さえ見れば,明確に区別(識別)できるという状態にしておく
※信託法34条1項2号ロ
4 不動産の分別管理
以下,金銭(預金)以外の財産の分別管理の方法を順に説明します。
まず,不動産については信託(による移転)の登記をすることで,分別管理をしたことになります。
<不動産の分別管理(※1)>
不動産には登記制度がある
→原則として登記の記載事項によって特定する
※信託法34条1項1号
※信託と倒産実務研究会編『信託と倒産』商事法務2008年p84
5 動産の分別管理
動産は,可能であれば物理的に隔離する方法で特定し,そうでなければ帳簿上の記録として特定します。
<動産の分別管理>
あ 物理的な隔離
物理的に隔離して特定する
例=金庫内への保管
い 帳簿による特定
一般的には種類,製造番号などの記号,所在場所などによって特定する
※信託と倒産実務研究会編『信託と倒産』商事法務2008年p84
う 登記事項の流用
動産・債権譲渡特例法による登記事項も参考になる
※動産・債権譲渡特例法7条2項5号,動産・債権譲渡登記規則8条1項参照
※信託と倒産実務研究会編『信託と倒産』商事法務2008年p85
6 債権の分別管理
債権が信託財産となっている場合には,他の債権と識別できる情報を帳簿に記録することで特定します。債権譲渡登記の登記事項が参考になります。
<債権の分別管理>
あ 指名債権
債権者,債務者,発生原因,発生時期,金額の指定などによって特定される
※信託と倒産実務研究会編『信託と倒産』商事法務2008年p87
い 登記事項の流用
動産・債権譲渡特例法による登記事項も参考になる
※動産・債権譲渡特例法8条2項4号,動産・債権譲渡登記規則9条1項参照
※信託と倒産実務研究会編『信託と倒産』商事法務2008年p87
7 特許権・実用新案権・意匠権・商標権の分別管理
知的財産権が信託財産となることもあります。特許権・実用新案権・意匠権・商標権はいずれも登録が必須です。そこで,登録番号で特定します。
<特許権・実用新案権・意匠権・商標権の分別管理>
あ 登録制度(前提)
登録が権利の発生要件である
※特許法66条1項,実用新案法14条1項,商標法18条1項,意匠法20条1項
い 分別管理の方法
登録番号などによって特定する
※信託と倒産実務研究会編『信託と倒産』商事法務2008年p88
8 特許を受ける権利の分別管理
知的財産権の中には,特許を受ける権利もあります。これも譲渡性があるので,信託財産となることがあります。
特許の出願後であれば,出願の番号などで容易に特定できます。出願前の段階では,具体的な発明の内容などで特定します。
<特許を受ける権利の分別管理>
あ 信託財産該当性(前提)
特許を受ける権利は譲渡性がある
※特許法33条1項
→信託財産となり得る
い 特許出願前
発明者の氏名,発明の名称,発明の内容などによって特定する必要がある
う 特許出願後
出願にかかる事由によって特定する
※信託と倒産実務研究会編『信託と倒産』商事法務2008年p88,89
9 著作権の分別管理
知的財産権の中の著作権は,登録によって発生するわけではありません。登録の制度はありますが,(権利の発生ではなく)権利の移転が登録の対象です。
信託の設定の際に,著作権の移転が行われるので,この際移転の登録をして,その登録番号で特定する方法が確実です。
なお,著作者人格権は,そもそも信託財産として認められないと思われます。
<著作権の分別管理>
あ 著作権(財産権)の登録制度(前提)
著作権の移転に関しては登録が対抗要件である
※著作権法77条1項
い 分別管理の方法
登録事項によって特定できる
う 著作者人格権の扱い
著作者人格権は金銭換算が不可能である
→信託財産とはならない可能性がある
※信託と倒産実務研究会編『信託と倒産』商事法務2008年p88
10 営業秘密・ノウハウの分別管理
営業秘密やノウハウも,経済的な価値はありますが,情報のままでそのまま信託財産とすることはできないと思われます。
記録媒体に入っている状態ならば,この記録媒体を信託財産とすることはできます。この場合,記録媒体は動産なので,前記の動産の特定と同じ方法で分別管理をします。
なお,ライセンス契約上の債権であれば,信託財産とすることが可能です。この場合は前記の債権の特定の方法で分別管理をします。
<営業秘密・ノウハウの分別管理>
あ 有形物への化体あり
記録媒体などによって有形的な物として管理されている場合
→動産の特定と同様に特定することが可能である
内容=種類,記号,所在場所などによって特定する
い 有形物への化体なし
有形的な物となっていない場合
例=役員や従業員に記憶されている情報
→特定は困難である
委託者から受託者への処分が観念できるかという点に疑問がある
使用・開示を許諾するライセンス契約に基づく債権を信託財産とするといった構成が必要である
※信託と倒産実務研究会編『信託と倒産』商事法務2008年p89
本記事では,信託財産の分別管理の方法(特定性の内容)について説明しました。
実際には,個別的な事情によって分別管理の方法(分別管理として認められるかどうか)が違ってきます。
実際に信託財産の分別管理(特定)の問題に直面されている方やこれから行う事業の中で信託の活用を検討されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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