【家事調停・審判・訴訟における当事者本人の出席の要否】
1 家事調停・審判・訴訟における当事者本人の出席の要否
金銭や明渡を求めるような通常の訴訟であれば、弁護士に依頼した当事者は裁判に出席する必要はありません。しかし、家庭裁判所の調停や審判、訴訟の場合には、弁護士に依頼した当事者でも出席が必要となることがあります。裁判所の期日は通常、平日の日中だけなので、平日勤務の方は大きな負担となります。
本記事では、家事調停・審判・訴訟において当事者本人が出席する必要性や実情について説明します。
2 実務の家事調停・審判・訴訟における本人の出席の実情
(1)家事調停における本人出席の実情・傾向
法律の解釈に入る前に、実際には本人の出席がどの程度必要になるのか、ということを説明しておきます。
まず、家事調停の期日に、代理人弁護士だけ出席して本人は欠席、ということも比較的多くあります。この場合、代理人弁護士が調停委員や裁判官と話をして手続を進めることになります。
手続の進み具合によっては、個別的に、リアルタイムで本人が対応できることが望ましい、という場合もあります。このような場合は、調停委員が、本人同席を要請することになります。
要請された側では、時間の調整が可能か、また感情面も含めて、検討し、参加が望ましくない場合は、そのように説明し、本人が出席しないまま調停を進めることもあります。
(2)家事審判における本人出席の実情・傾向
審判は、調停よりも、書面による法的理論や法的主張の比重が高く、話し合いという性格は薄いです。そこで、当事者本人の直接のコメントが求められることは少なくなります。代理人弁護士の出席で十分、という傾向が強いです。
実際に、審判では(調停よりも)、本人出席が要請されない方向性で運用されています。
(3)家裁の訴訟における本人出席の実情・傾向
家庭裁判所における訴訟(人事訴訟)では、当事者本人の出席を必要とする規定はありません。代理人弁護士の出席で足りる、ということです。
現実に、代理人弁護士だけが出席する、ということがほとんどです。当事者本人の直接のコメントが必要な場面というのはほとんどありません。
というのは、訴訟では、書面による理論的な主張が中心であり、話し合いが必要となる状況は少ないのです。
なお、訴訟の最終局面で、当事者尋問が実施される場合だけは、当然ですが、本人の出席が必要になります。とは言っても、統計上、約半数が、尋問は実施されず、和解で終了しています。
別項目;ご相談者へ;訴訟;尋問施行割合
3 和解成立の際の当事者本人の出席の必要性(参考)
以上の説明は、一般的な期日に、当事者本人の出席が必要かどうか、というものでした。
この点、和解が成立する場合で、かつ、身分関係に変動が生じる場合は別の扱いとなります。典型例は離婚を成立させる和解です。
この場合は、基本的に当事者本人の参加が必要となります。ただし、電話連絡で済ませる、などの工夫はあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|家裁の調停・審判・訴訟における和解成立の際の当事者本人出席の要否
4 家事事件手続法の条文
以上は、実務における実際の運用、傾向でした。以下、法律とその解釈という理論的なことを説明します。
まず最初に、家事調停と審判に関する家事事件手続法の規定を押さえておきます。
代理人弁護士がついていても、裁判所が当事者本人を呼出した場合には当事者本人が出席(出頭)しなくてはならない、と規定されています。出頭が義務付けられたのに出頭しない場合には、家裁が5万円以下の過料の支払いが命じるという規定もあります。
家事事件手続法の条文
あ 家事事件手続法51条(家事審判)
(事件の関係人の呼出し)
第五十一条 家庭裁判所は、家事審判の手続の期日に事件の関係人を呼び出すことができる。
2 呼出しを受けた事件の関係人は、家事審判の手続の期日に出頭しなければならない。ただし、やむを得ない事由があるときは、代理人を出頭させることができる。
3 前項の事件の関係人が正当な理由なく出頭しないときは、家庭裁判所は、五万円以下の過料に処する。
※家事事件手続法51条
い 家事事件手続法258条(家事調停)
(家事審判の手続の規定の準用等)
第二百五十八条 第四十一条から第四十三条までの規定は家事調停の手続における参加及び排除について、第四十四条の規定は家事調停の手続における受継について、第五十一条から第五十五条までの規定は家事調停の手続の期日について、第五十六条から第六十二条まで及び第六十四条の規定は家事調停の手続における事実の調査及び証拠調べについて、第六十五条の規定は家事調停の手続における子の意思の把握等について、第七十三条、第七十四条、第七十六条(第一項ただし書を除く。)、第七十七条及び第七十九条の規定は家事調停に関する審判について、第八十一条の規定は家事調停に関する審判以外の裁判について準用する。
2(略)
※家事事件手続法258条
5 呼出しの対象となる「期日」の内容
呼出しを受けたら出席義務が生じるのは「期日」となっています。
この「期日」という言葉ですが、裁判に関係する場面では日常的に使われています。
正確な内容を整理しておきます。
審判における「期日」には証拠調べ期日と審問期日があります。審判の期日うち大部分は、その場で主張の確認や意見を交わすといったものであり、これは審問期日です。
次に、調停では、そのような区分けはなく、要するに話し合いをする日程のことを、単に期日と呼んでいます。
呼出しの対象となる「期日」の内容
あ 家事審判
「家事事件の手続の期日」とは、裁判長又は裁判官が裁判所又は裁判官と当事者その他の関係人が会して家事事件の手続に関する行為をするために定められた一定の時間をいい、「証拠調べの期日」(家事事件手続法46条)や「審問の期日」(家事事件手続法69条)がその典型的なものということになります。
※梶村太一著『家事事件手続法規逐条解説(1)』テイハン2018年p162、163
い 家事調停
家事調停の手続における「期日」とは、調停機関である調停委員会の構成員(裁判官及び家事調停委員)あるいは単独調停裁判官と当事者(申立人及び相手方)その他の関係者(裁判所書記官や家庭裁判所調査官)が一堂に会して家事調停の手続に関する行為をするために設けられた一定の時間帯をいいます。
※梶村太一著『家事事件手続法規逐条解説(3)』テイハン2019年p73
6 出頭義務と制裁の対象の範囲(一致)
以前の法律では出頭義務や制裁の対象が少し不明確でしたが、現在の家事事件手続法では明確になっています。
出頭義務が生じるのも、制裁の対象となるのも呼出しを受けた場合に限られます。
出頭義務と制裁の対象の範囲(一致)
※梶村太一著『家事事件手続法規逐条解説(1)』テイハン2018年p163
7 制裁の前提となる呼出し
「期日」に呼出しを受けた当事者本人がこれに応じない、つまり出席しないと(条文上)過料の制裁を受けることがあります。制裁を与えるというのは重いことなので、正式な方式の呼出しを受けた場合に限定されます。逆に、呼出しの中には、普通郵便や電話による簡易型の呼出しもあるのですが、このような呼出しを受けた場合には(応じない当事者に対して)制裁を与えることはできないと解釈されています。
制裁の前提となる呼出し
普通郵便や電話等による簡易呼出しも、呼出しとしては有効ですが、これによって不出頭者へ制裁を科すことはできません。
※梶村太一著『家事事件手続法規逐条解説(1)』テイハン2018年p165
8 「やむを得ない事由」の内容・具体例
正式な呼出しを受けた当事者本人が期日に出席しないと、過料の制裁を受ける、と条文には規定されています。ただし、やむを得ない事由がある場合には制裁は適用されません。
やむを得ない事由の内容は、条文には記述されていませんが、本人や近親者の病気、急遽の仕事の都合などがあり得ます。
解釈としてはこのように限定的ですが、実際に、「やむを得ない事由には当たらないので過料(制裁)を与える」ということになるのはほぼありません。どちらかというと、特に理由なく出席の要請を拒絶すると印象が悪くなるので、そのようなことをするケースは通常ないのです。
「やむを得ない事由」の内容・具体例
あ 見解
「やむを得ない事由」については、相当限定的に解すべきであるとされています。
裁判所が本人自身の出頭が必要であると考えて呼出しをしたにもかかわらず、代理人が出頭することでやむを得ないとされることはそんなにあるはずはありません。
本人又は監護すべき親族が急病になったとか、仕事上どうしても代替がきかない重要な事情が生じたとか、極めて例外的な場合に限られます。
※梶村太一著『家事事件手続法規逐条解説(1)』テイハン2018年p164
い 典型例
・本人の病気
・親族・近親者の危篤
・親族・近親者の葬儀
・海外出張
本記事では、家庭裁判所の手続(調停・審判・訴訟)における当事者本人の出席の必要性について説明しました。
実際には、個別的な事情によって法的解釈や最適な対応方法は違ってきます。
実際に家庭裁判所の手続を検討されている方、すでに手続が進行していて問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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