【裁判による離縁が認められる事情(縁組を継続し難い重大な事由)】
1 裁判による離縁が認められる事情(縁組を継続し難い重大な事由)
2 離縁の裁判の手続(参考)
3 民法814条の条文
4 縁組を継続し難い重大な事由の基本的解釈
5 重大な事由の判断の枠組み
6 重大な事由に該当する事情の類型
7 重大な事由にあたる暴行・虐待・重大な侮辱
8 重大な事由にあたる絶縁・長期の別居
9 重大な事由にあたる家業承継や金銭をめぐる不和・対立
10 縁組当事者の一方の夫婦関係の破綻
1 裁判による離縁が認められる事情(縁組を継続し難い重大な事由)
養子縁組を解消すること(離縁)は,養子と養親が合意すれば届け出だけで実現します(協議離縁)。一方が拒否すれば協議離縁は成立しません。その場合でも,裁判所が認めた場合には離縁が成立します。
本記事では,裁判所が離縁を認める事情について説明します。
2 離縁の裁判の手続(参考)
離縁に向けた協議が決裂した場合,養子または養親は,裁判所に離縁の申立をすることができます。家裁の手続としては訴訟対象事件−一般調停対象事件として分類されています。
詳しくはこちら|家事事件(案件)の種類の分類(別表第1/2事件・一般/特殊調停)
そこで,最初に家事調停を申し立て,これが不成立となった場合に訴訟を申し立てるのが通常の方法となります。
3 民法814条の条文
裁判所が離縁を認める事情(離縁事由)は,民法814条に規定されています。まずは条文を押さえておきます。
<民法814条の条文>
縁組の当事者の一方は,次に掲げる場合に限り,離縁の訴えを提起することができる。
一 他の一方から悪意で遺棄されたとき。
二 他の一方の生死が三年以上明らかでないとき。
三 その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき。
※民法814条1項
4 縁組を継続し難い重大な事由の基本的解釈
実際によく問題となるのは,前記の条文のうち3号の,縁組を継続し難い重大な事由です。
抽象的な解釈としては,関係が破綻し,正常な親子関係の回復の可能性がないということになります。
<縁組を継続し難い重大な事由の基本的解釈>
あ 基本的解釈
縁組を継続し難い重大な事由とは,養親子としての精神的,経済的生活関係を維持もしくは回復することが極めて困難なほどに縁組を破綻せしめる事由の存在する場合であり,これ以上縁組の継続を強制しても,正常な親子的社会関係の回復が期待できない場合である
※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 親族 第2版』日本評論社2019年p194
い 有責性との関係
重大な事由は,必ずしも当事者双方または一方に有責事由がある場合に限られない
※最判昭和36年4月7日
5 重大な事由の判断の枠組み
縁組を継続し難い重大な事由の解釈は前述のように,抽象的です。実際には具体的な事案の中の多くの事情を総合的に考慮して判断する,ということになります。これに当てはめれば容易に判定できる,というような具体的基準があるわけではありません。
<重大な事由の判断の枠組み>
継続し難い重大な事由の存否は,当該養親子間における親子的共同生活の客観的破綻の度合と縁組の目的・その他の成立事情とを相関的に勘案して判断すべきである
未成年養子と成年養子では異なる配慮が必要との見解もある
※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 親族 第2版』日本評論社2019年p194
※最判昭和42年5月25日参照
6 重大な事由に該当する事情の類型
前述のように縁組を継続し難い重大な事由の明確な判断基準はありませんが,実際に縁組を継続し難い重大な事由として認められる事情は大きく4つに分類できます。
<重大な事由に該当する事情の類型>
あ 暴行・虐待・重大な侮辱
い 絶縁・長期の別居
う 家業の承継や金銭等をめぐる養親子の不和・対立
え 縁組当事者の一方の夫婦関係の破綻
婿養子縁組の場合に,養子夫婦の婚姻関係が破綻した
夫または妻の連れ子を養子としたケースで,養親と実親の婚姻関係が破綻した
7 重大な事由にあたる暴行・虐待・重大な侮辱
前記のように,縁組を継続し難い重大な事由にあたる(裁判所が離縁を認める)それぞれの類型について,実際に裁判所が離縁を認めた事情の要点を,以下まとめます。
まずは,暴行・虐待・重大な侮辱があったため離縁が認められたというものをまとめます。
<重大な事由にあたる暴行・虐待・重大な侮辱>
あ 昭和60年判例
養子が,老齢の養父母に対して暴言,押し倒し,足蹴にするといった暴行をふるっていた
※最判昭和60年12月20日
い 昭和40年横浜地判
養子が,養親に対し暴言や侮辱的発言をした
※横浜地判昭和40年4月16日
う 昭和41年福島家審
性的同棲関係にある養女に対し暴行虐待を加え,雇人との肉体関係を強要した
※福島家審昭和41年8月11日
8 重大な事由にあたる絶縁・長期の別居
養子と養親の絶縁・長期の別居により,裁判所が離縁を認めた実例の要点をまとめます。
<重大な事由にあたる絶縁・長期の別居>
あ 昭和40年判例
養子と養親が10年以上にわたり別居し,精神的,物質的な交流を欠いていた
※最判昭和40年5月21日
い 平成16年東京地判
82歳の女性と僧侶夫婦が縁組後4年間,同居をしたことがなかった
現在では養親子は互いに交流を図る意思を全く失っている
※東京地判平成16年8月23日
う 昭和25年京都地判
養子が無断で家出をし(別居に至り),養親が同居を懇願したが拒絶している
※京都地判昭和25年1月23日
え 平成5年東京高判,平成5年東京地判
長期間音信不通であり,交際も扶養関係もなく互いに親子の情愛がなくなっている
※東京高判平成5年8月25日
※東京地判平成5年12月24日
9 重大な事由にあたる家業承継や金銭をめぐる不和・対立
養子と養親が,家業の承継や金銭(財産)に関して対立した(紛争となった)ことにより,裁判所が離縁を認めた実例の要点をまとめます。
<重大な事由にあたる家業承継や金銭をめぐる不和・対立>
あ 昭和40年横浜地判
養子には,家業の維持発展に努める意思と気力がない
養親も希望を失った
※横浜地判昭和40年4月16日
い 昭和48年大阪地判
経済的対立,確執が生じた
※大阪地判昭和48年1月23日
う 昭和57年東京高判
養子・養親が,遺産をめぐって長期間にわたり対立・葛藤している
※東京高判昭和57年10月21日
10 縁組当事者の一方の夫婦関係の破綻
もともと,養子縁組が婚姻に伴って行われることもあります。婿養子と連れ子の2つに分けられます。いずれも婚姻と縁組がセットという状況にあります。そこで,婚姻関係が破綻した場合には養親子関係も破綻したと判断されることがあります。ただし,必ずということではありません。婚姻関係は破綻したが養親子関係は破綻していない(離縁を認めない)という実例もあります。
<縁組当事者の一方の夫婦関係の破綻>
あ 婿養子(概要)
ア 夫婦関係の破綻
養親Xが将来自分の後継者にするつもりでYを子Aの婿養子とした
その後,養子YとA(Yの配偶者)の夫婦関係(婚姻関係)が破綻した
イ 離縁についての判断の傾向
裁判所は離縁を認める傾向がある
ただし,事情によって離縁を認めないこともある
詳しくはこちら|『婿養子』が離婚をしたら『離縁』も認められるが例外もある
い 連れ子(裁判例引用)
本件養子縁組は,原告とM(原告の夫)間の婚姻生活の円満を目的としてなされたことが認められ,原告とM間の婚姻は,・・・,婚姻を継続し難い重大な事由があるときに該当するから,原告とT,S(2名の養親)間の縁組も,縁組を継続し難い重大なる事由あるときに該当すると解するのが相当である。
※京都地判昭和39年6月26日
本記事では,裁判所が離縁を認める事情について説明しました。
実際には,個別的事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
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