【遺産分割の分割方法の基本(分割類型と優先順序)】

1 遺産分割の分割方法の基本(分割類型と優先順序)

遺産分割は、遺産(相続財産)の最終的な取得者(承継者)を決める手続です。どのように承継させるか、という方法は、いくつかの型(類型)に分けられます。
本記事では、遺産分割の分割類型の種類と、裁判所が判断する際の優先順序(判断基準)といった分割方法の基本部分を説明します。

2 遺産分割の分割類型

遺産分割でどのように財産を承継させるか(分けるか)ということや、その分けたかの種類(型)を通常、分割方法といいます。一方、分割方法というと、協議や調停、審判といった手続の種類を意味することもあります。そこで、本サイトでは、分割方法の型のことを分割類型といいます。
遺産分割の主要な分割類型は4つがあります。

遺産分割の分割類型

あ 現物分割

現物分割は、個々の財産(不動産、動産、有価証券など)の形状や性質を変更することなく分割するものである
※民法258条2項

い 代償分割

代償分割とは、一部の相続人にその相続分を超える遺産を現物で取得させ、その代わりに、相続分に満たない遺産しか取得しなかった他の相続人に対して債務を負担させる分割方法である
※家事事件手続法195条(旧家事審判規則109条)

う 換価分割(価格分割)

換価分割とは、遺産の全部または一部を売却等により換価して、その代金を分配する分割方法である
※民法258条2項

え 共有分割

物権法上の共有とする分割である
※大阪高決昭和38年5月20日(相続人による共有分割の合意後の遺産分割の申立を却下した判断を維持した)

お その他

『あ〜え』の組み合わせや、用益権の設定(現物分割の一種)という分割類型もある
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p393

か 分割禁止(参考)

相続人全員の合意または裁判所の審判として、遺産分割自体を一定期間しない(禁止する)ということもできる
詳しくはこちら|遺産分割の禁止(4つの方法と遺産分割禁止審判の要件)

3 協議・調停による分割の自由

相続人全員が話し合いの末、合意した(協議が成立した)場合や、調停の中で相続人全員が合意した(調停が成立した)場合には、分割方法(分割類型)を自由に決められます。後述の優先順序(判断基準)が適用されるわけではありません。また、柔軟に細かい条件や工夫を盛り込むことも可能です。

協議・調停による分割の自由

あ 分割方法の自由度

協議分割・調停分割においては、基本的に当事者が合意すればいかなる分割方法(分割類型)によるのも自由である

い 具体例

ア 共有分割の選択 現物分割可能な場合でも共有にすることもできる
イ 売却代金による債務弁済 遺産たる不動産を任意売却して、売却代金から各種の経費や相続債務を控除し、残金を法定相続分で分配する
ウ 現物分割と用益権設定 一部相続人が不動産を現物取得しつつ、他の相続人に利用させ、利用条件を定める
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p393

4 裁判所による分割類型の選択基準(優先順序)

相続人の全員が合意に達しない限り、協議による遺産分割や調停による遺産分割は実現(完了)しません。最終的に、審判として裁判所が分割方法(分割類型)を決める、ということになります。
裁判所が選択(決定)する分割類型には優先順序(判断基準)があります。現物分割、代償分割、換価分割、共有分割という順です。

裁判所による分割類型の選択基準(優先順序)

あ 第1順位=現物分割

遺産分割はその性質上できるかぎり現物を相続人に受け継がせるのが望ましいことから、現物分割が原則的方法とされる

い 第2順位=代償分割

代償分割は、相続開始時の遺産の形態を維持した方法として現物分割の変形ともいえる
現物分割に「代える」(家事事件手続法195条)ものとされていることから現物分割の次に選好されるべきものである

う 第3順位=換価分割

現物分割、代償分割ができない場合に換価分割を選択する

え 第4順位=共有分割

早晩共有物分割をめぐる紛争となる危険があり問題を先送りするだけになりかねない(ので最劣後とする)
※最判昭和30年5月31日(後記※1
※大阪高決平成14年6月5日
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p393、394
※『月報司法書士2014年4月号』日本司法書士会連合会p68参照
※『月報司法書士2011年12月』日本司法書士会連合会p10参照

5 遺産分割における分割類型の優先順序の枠組み

前記の優先順序は多くの判例、裁判例が示していますが、その代表的なものを紹介します。遺産分割についても共有物分割の規定が適用される、つまり本質は同じであるという指摘もされています(後述)。

遺産分割における分割類型の優先順序の枠組み(※1)

遺産の共有及び分割に関しては、共有に関する民法256条以下の規定が第一次的に適用せられ、遺産の分割は現物分割を原則とし、分割によって著しくその価格を損する虞があるときは、その競売を命じて価格分割を行うことになるのである
民法906条は、その場合にとるべき方針を明らかにしたものに外ならない
※最高裁昭和30年5月31日
※最高裁平成6年3月8日(昭和30年判例を踏襲)

6 遺産分割における現物分割の基本

裁判所の選択の第1順位にある現物分割の基本的内容を整理します。
実は現物分割といっても、2種類に分けられます。1つの財産を複数の財産(部分)に分けるという狭義の現物分割と、1つの財産を取得する相続人1人を決める、という個別分割です。土地甲を長男が、銀行預金乙を次男が取得する、というような、世間的な典型といえる方法です。

遺産分割における現物分割の基本

あ 内容

現物分割は、個々の財産(不動産、動産、有価証券など)の形状や性質を変更することなく分割するものである
現状を相続人に受け継がせるのが望ましいという観点から遺産分割の原則的方法とされる

い 分類

ア 狭義の現物分割 個々の物件そのものを複数の相続人に分割する
1つの財産が複数の財産に分かれることになる
イ 個別分割 個々の物件そのものは分割しない
個々の物件について、承継する相続人を決める
例=甲物件は相続人Aが、乙物件はBが承継する

う 実務の傾向

(純粋な)現物分割により具体的相続分に対応する遺産の配分が完了する(実現できる)ことはほとんどない
取得額との過不足について代償金の支払を要する(=代償分割との併用)が一般的である
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p394

7 遺産分割における代償分割の基本

裁判所が選択する場合の第2順位である代償分割は、相続人の1人が財産を承継し、その代わりに、自身の手持ち資金から、対価(代償金)を他の相続人に支払う、というものです。「買い取る」というようなイメージの方法です。

遺産分割における代償分割の基本

あ 内容

代償分割とは、一部の相続人にその相続分を超える遺産を現物で取得させ、その代わりに、相続分に満たない遺産しか取得しなかった他の相続人に対して債務を負担させる分割方法である

い 代償分割を選択する事情(要件)(概要)

代償分割を選択するには「特別の事情(事由)」が必要である
詳しくはこちら|遺産分割における代償分割の基本(規定と要件)

8 遺産分割における換価分割(概要)

換価分割は、遺産を第三者に売却し、売却代金(金銭)を分ける、というものです。金銭になった後は単純、公平に分けることができますが、売却の段階で安くしか売れないという傾向があり、これがデメリットとなります。
詳しくはこちら|遺産分割における換価分割(任意売却と競売)

9 遺産分割における共有分割(概要)

遺産分割の結果として、最終的に共有の状態とする方法もあります。もともと、共有の状態はいろいろな問題(紛争)が生じる原因となるので、解消することが望まれます。そこで、裁判所が共有のまま終わらせる(共有分割)には、その後の問題が生じないような状況の場合に限られることになります。
詳しくはこちら|遺産分割における共有分割(共有のままとする分割)

10 遺産分割における用益権設定による分割

平成29年の民法改正で、遺産分割として配偶者居住権を設定する、という方法が作られました。これに限らず、(改正前から)遺産分割の内容として、賃貸借や使用貸借を設定するという方法があります。
詳しくはこちら|遺産分割における用益権設定による分割(現物分割の一種)

11 遺産分割と共有物分割の比較(参考・概要)

前述(前記※1)のように、遺産分割と、共有物分割の本質は同じといえます。一方、いろいろな違いもあります。この2つの分割手続の比較については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|2つの分割手続(遺産分割と共有物分割)の違い

本記事では、遺産分割の分割方法の基本的事項を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に相続や遺産分割に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【「建物だけ」や「建物と土地」の現物分割の可否(類型別)】
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