【遺言書専門家が明かす!トラブルを生む典型的な文言とその対処法】

1 トラブルを引き起こす典型的な文言の事例

遺言書(遺言)は相続の際のトラブルを防ぐための重要なツールですが、不適切な文言や曖昧な表現を含む遺言書は、逆にトラブルの原因となることがあります。以下に、遺言書でのトラブルを引き起こす典型的な文言の事例を紹介します。

(1)「愛する者に全財産を遺す」

この文言は非常に曖昧で、具体的に「愛する者」とは誰を指すのかが不明確です。大体分かることもあるでしょうけど、一般論としては「愛する者」が変わる可能性もあります。
このような不確定な文言は、法的には無効となってしまいます。

(2)「大切に思う人たちに、適切に分けてほしい」

この文言もまた、具体的に誰を指すのか、どのように財産を分けるのかが明確ではありません。遺産を「適切に」分ける基準が何であるかを明確にしないと、相続人間での意見の不一致や解釈の違いが生じ、結果的に対立やトラブルの原因となります。
なお、特定の者に、「分ける方法」を委ねる方法は有効です。

(3)「子どもたちが仲良くしてくれている限り、財産を等分にする」

この文言の問題点は「仲良くしてくれている」という基準の曖昧さにあります。仲良くしているかどうかは主観的な判断となり、具体的な基準が設けられていないため、これも無効となってしまいます。

(4)「家を大事に使ってくれる者に、私の家を譲る」

こちらの文言も「大事に使う」という条件が非常に曖昧です。何をもって「大事に使う」と判断するのか、その基準が設定されていないため、これも無効となってしまいます。

(5)「孫たちに思い出の品を残したい」

この文言は、具体的にどの孫にどの思い出の品を残すのかが不明確である点に問題があります。また、遺言書の作成時点から時間が経過し、新たな孫が生まれたり、思い出の品の数や内容が変わったりすると、どの品をどの孫に渡すべきかの判断が難しくなることが予想されます。
これも無効となってしまいます。

これらの文言は一見優しさや気遣いを感じさせるものであり、亡くなった後で相続人全員がその気持ちに沿った遺産分割の合意に至ればよいですが、そうでなければトラブルを起こしてしまう結果となります。
遺言書を作成する際は、明確かつ具体的な表現を用いることが重要です。

2 遺言書の本質(存在意義)

以上の文言が無効となる背景には、遺言書が相続人や関係者に対して明確な意向を伝える役割を果たすためのものであるにも関わらず、曖昧な表現や不明確な指示により、その意向が正確に伝わらないことが挙げられます。
遺言書は、遺言者の意思を(書いた人が亡くなった後に)関係者に的確に伝えるという重要な機能をもった書面です。具体的かつ明確な文言を使用することが求められます。

3 正確でトラブルを避ける遺言書の書き方の提案

遺言書を作成する際、トラブルを回避するための正確な書き方は非常に重要です。以下に、そのための基本的なポイントと提案をまとめます。

(1)具体的な名称を使用する

例えば「愛する者」や「大切に思う人たち」という曖昧な表現を避け、具体的な人の名前や関係を明記します。「長女の田中花子に」といった具体的な指定をすることで、誤解を避けられます。

(2)財産の明確な記述をする

財産を相続する際には、その財産の詳細を具体的に記述します。例えば「東京都◯◯区◯◯◯丁目◯番地にあるマンション101号室を」のように、明確な住所や番号を記載することが推奨されます。

(3)条件を設定する場合は、明確な基準を記述

「家を大事に使う」といった主観的な条件を避け、具体的な条件や基準を設定することが求められます。例えば「家を継承する者は、5年以内に改築や売却を行ってはならない」というような明確な条件(負担)を設けることが考えられます。

(4)遺言書の更新を定期的に行う

遺言書はパーフェクトに作成したらもうそのままにしてよい、というものではありません。
家族構成の変化や財産の増減など、状況の変化に応じて遺言書を更新することが重要です。これにより、遺言書の内容が常に最新の状態を反映することができます。

(5)専門家のアドバイスを求める

法律や遺言書作成の専門家である弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けることで、遺言書の内容の適切さや法的な問題点を事前に確認できます。

遺言書は、遺言者の意思を正確に伝え、相続人や関係者間のトラブルを未然に防ぐための重要なツールです。
せっかく遺言書を作成しても、無効となってしまうことはとても多いです。
詳しくはこちら|遺言の無効事由の種類(全体・無効主張の特徴・傾向)
遺言書を作成する時には、上記の説明を参考に、明確かつ具体的な文言で遺言書を作成することが必要です。

本記事では、遺言書を作成したけれど無効なってしまう具体例を挙げて、遺言書の書き方の注意点を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺言書作成を検討している方、すでに作成された遺言書の解釈の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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