【生前贈与の実践:相続トラブルを未然に防ぐ方法】
1 生前贈与のメリットとデメリット
相続対策としての生前贈与は、多くの家族が考える選択肢の一つとなっています。しかし、生前贈与を行う前に、そのメリットとデメリットをしっかりと理解することが大切です。
(1)メリット
あ 税制上の利点
生前贈与を行うことで、一定の控除を受けることが可能です。特に贈与税の非課税額を活用することで、節税の効果を期待できます。
詳しくはこちら|相続税の節税の基本|相続財産自体を減らす・評価を下げる
なお、生前贈与の税金について相続と同じ扱いにする、という特別な方法(相続時精算課税制度)もあります。
詳しくはこちら|相続税,贈与税;相続時精算課税制度
い 関係の円滑化
贈与を受ける者との関係をより良好にするチャンスとなり、相続時の争いを減少させる可能性があります。
う 生前の喜びを共有
贈与する財産を生前に家族や親しい人と共有することで、その喜びを実感できます。
(2)デメリット(リスク)
あ 資産のコントロール喪失
一度贈与を行うと、通常はその撤回はできません。そこで、その財産に対するコントロール権を喪失します。贈与後の財産の管理や利用については、贈与を受けた者の意向が優先されます。
い 贈与税の計算
贈与税は複雑で、間違った計算や手続きを行うと、予期せぬ税金が発生するリスクがあります。
う 感情のトラブル
贈与の金額や財産の内容によっては、家族間での不平等感や不満が生じる可能性があります。
結論として、生前贈与は適切に行えば多くのメリットを享受できる手段ですが、デメリットも無視できない点として存在します。実際に生前贈与を検討する際は、専門家のアドバイスを受けながら、注意深く進めることがおすすめです。
2 生前贈与と相続の違い
相続と生前贈与は、いずれも財産の移転を伴うものですが、その内容や目的、そして法的な取り扱いには大きな違いがあります。これらの違いを理解することで、より適切な資産の移転方法を選ぶことが可能となります。
(1)定義の違い
あ 生前贈与
贈与者が生きている間に、自らの意思で財産を他人に移転すること。
い 相続
死亡により、遺産として残された財産が法定相続人などに移転すること。
(2)目的の違い
あ 生前贈与
節税、家族の関係の円滑化、生前の喜びの共有など、多様な目的が考えられます。
い 相続
財産の継承を目的として行われるもので、遺言による指示や法定相続順位に従って財産が移転します。
(3)法的な取り扱いの違い
あ 生前贈与
贈与税が課されることが一般的で、贈与の際の金額や内容によっては税金の控除や非課税の恩恵が受けられる場合もあります。
い 相続
相続税が課されます。法定相続分を守るための制度や、遺言による財産の移転など、相続には独自の法的な規定が多数存在します。
(4)時間的な違い
あ 生前贈与
贈与者が生きている間に行われる財産の移転です。
い 相続
贈与者が亡くなった後に始まる、法的な手続きを伴う財産の移転です。
結論として、生前贈与と相続は、目的や法的な背景、そして実際の取り扱いが大きく異なります。それぞれの特性を理解し、適切な資産の移転方法を選択することが重要です。
3 相続トラブルを防ぐ生前贈与の実践例
相続の際のトラブルは、多くの家族を悩ませる問題の一つです。生前贈与を適切に実践することで、これらのトラブルを未然に防ぐ手段として活用できます。以下に、その実践例を紹介します。
(1)均等な贈与を目指す
Aさんは3人の子どもがおり、彼らに対して均等に資産を分けることを考えていました。生前贈与を利用して、各子に同額の現金や不動産の権利を均等に移転しました。これにより、Aさんの死後、子どもたちの間での財産を巡る争いを避けることができました。
(2)透明性の確保
Bさんは、一部の財産を長男に生前贈与することを決意しました。しかし、これを秘密にすることで他の家族との間にトラブルを生むことを懸念していました。そこで、家族全員を集めて生前贈与の意向とその理由を説明。全員の理解を得た上で、贈与を行うことで、透明性を確保しました。
(3)贈与のタイミングを工夫する
Cさんは、娘が結婚する際に一定の財産を贈与したいと考えていました。しかし、一度に大きな金額を贈与すると、贈与税の負担が大きくなることを懸念していました。そこで、数年にわたり段階的に財産を贈与することで、税制上の非課税額を活用しながら、節税効果を最大限に活用しました。
生前贈与は、相続トラブルを未然に防ぐ有効な手段となりますが、その方法やタイミング、そして家族間のコミュニケーションが重要となります。適切な方法で生前贈与を実践することで、家族間の絆を深めることも期待できるでしょう。
4 生前贈与を行う際の注意点
生前贈与は相続トラブルの予防や節税などのメリットがありますが、その実施に際しては、多くの注意点が存在します。以下に、生前贈与を考える際に特に意識すべきポイントをまとめました。
(1)贈与税の計算
生前贈与を行った際、一定の金額を超える場合は贈与税が課せられます。具体的な金額や非課税の控除額は、税制改正などにより変動するため、実施前に最新の情報を確認しましょう。
(2)残された生活資金の確保
生前贈与を行う際は、贈与者自身の生活資金を確保することが重要です。贈与しすぎて後の生活に困るような事態は避ける必要があります。
(3)遺留分侵害の回避
民法上、遺留分という制度があり、遺言をしても実質的に一部が無効となったようなことになることがあります。具体的には、「過剰にもらった者」が、「少なくしかもらっていない相続人」に対して金銭を支払うことになるのです。
詳しくはこちら|遺留分の制度の趣旨や活用する典型的な具体例(改正前・後)
このように、生前贈与が過大になると、遺留分の権利を侵害する場合がありますので注意が必要です。
(4)書面による記録
贈与の意向や内容、条件などを明確にするため、書面による記録を残すことをおすすめします。これにより、後日のトラブルや誤解を避ける助けとなります。
(5)家族とのコミュニケーション
生前贈与は、家族間の関係や感情に大きな影響を与えることがあります。事前に家族全員で意向や考えを共有し、納得の上で行うことが、後のトラブルを防ぐ鍵となります。
生前贈与は適切に活用することで多くのメリットを享受できますが、以上のように、リスク、デメリットもあります。実際には、現時点で生前贈与をした方がよいか、そのままにしておいて、相続の時に承継するようにすれば足りるか、どちらがよいか、ということは簡単には判断できません。
本記事では、生前贈与の活用について全体的なことを説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
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