【離婚(離縁)調停におけるリモート参加・調停に代わる審判の活用】

1 離婚(離縁)調停におけるリモート参加・調停に代わる審判の活用

家事調停では、当事者が遠隔地に居住している場合、裁判所から遠い当事者が出てきます。リアル出席をすると時間や費用のコストが無駄に大きくなるところ、リモート参加が認められています。また、そもそも(リアルもリモートも)参加すらしないで済む手段もあります。ところが、離婚と離縁の調停については、このような制度、手段の利用が制限されています。本記事ではこのことを説明します。

2 遠隔地の裁判所への参加→遠方当事者の負担大

家事調停は原則として相手方住所地の家庭裁判所で行います。
詳しくはこちら|家事事件の管轄のまとめ(調停・審判・訴訟での違いと優先管轄)
たとえば離婚調停では一方が地方の実家に戻っているケースがよくあります。これにより、遠方に住む配偶者(当事者)がリアル参加するとすれば、大きな経済的・時間的負担となります。このことが原因で、移送申立という形で前哨戦が始まることもよくあります。
詳しくはこちら|遠方の裁判所に係属|交通費・日当・出席しない制度・依頼する弁護士

3 リアル参加を避ける制度→オンライン会議システム・書面による受諾

(1)電話会議システムの利用→通常期日可能・調停成立原則可能

この点、家事調停の期日では電話会議システム、オンライン会議システムなど、通信手段を用いた参加が認められています(家事事件手続法258条1項、54条1項)。このようなリモート参加の制度により、前述の当事者の負担の多くは解消されます。
ただし、離婚または離縁についての調停事件においては、電話会議システムの方法によっては調停を成立させることができません(家事事件手続法268条3項)。なお離婚と離縁は基本的に同じ扱いなので、以下の説明では基本的に離婚だけ記載します。
この制度を使えるのは、調停成立以外の期日と、離婚(離縁)以外の調停成立(養育費、財産分与、親権者の指定など)ということになります。
詳しくはこちら|電話会議システム|電話で裁判に参加できる|離婚・離縁成立だけはNG

(2)書面による受諾→一般調停では可能

一般的な家事調停事件では、当事者が遠隔地に居住しているなどの理由で出頭が困難な場合、調停委員会から提示された調停条項案を書面で受諾することが可能です(家事事件手続法270条1項)。具体的には、出頭困難な当事者が調停条項案を受諾する旨の書面を提出し、他の当事者が期日に出頭して当該調停条項案を受諾した場合、当事者間に合意が成立したものとみなされます。
ただし、離婚(離縁)についての調停の成立については、この規定は適用されません(家事事件手続法270条2項)。
詳しくはこちら|書面受諾和解・調停|期日に出席せずに和解成立・電話会議システムにリプレイスされ気味

(3)離婚調停成立時→本人または弁護士の出席が必要

以上のように、離婚成立(離縁成立)の調停については、リアル出席を避ける方法はいずれも使えません。調停期日へのリアル出席が必要です。ここで、一般的ルールとして、最低限代理人(弁護士)だけの出席でも当事者が出席した扱いになります。ただし、状況によっては制限があります。次に説明します。

4 弁護士のみの出席→離婚成立では本人の意思確認が必要

(1)調停期日一般→代理人のみ可能

離婚調停の期日に弁護士だけが出席して本人は欠席するということはよく行われています。広く裁判の一般論で弁護士が代理人となる、という当たり前のことですが、これについては注意が必要です。”家事調停(や家事審判)では、法律上は「やむを得ない事由」がある場合だけ、ということになっています。ただし、実務では弁護士のみの出席(本人欠席)は広く認められています。
詳しくはこちら|家事調停・審判・訴訟における当事者本人の出席の要否

(2)離婚成立の期日→本人出席または意思確認必要

ただし、離婚(離縁)が成立する期日については、特別扱いがあります。それは、本人が欠席して代理人弁護士だけが出席する方法は、裁判所によっては認めないことが多いです。その理由は、本人の意思をしっかり確認するというものなので、電話などで本人の意思確認ができるならば、弁護士だけの出席で済ませる(調停成立とする)扱いもあります。いずれにしても、裁判所(担当裁判官)によって判断が異なります。
詳しくはこちら|家裁の調停・審判・訴訟における和解成立の際の当事者本人出席の要否

5 弁護士も本人も出席しない離婚成立→調停に代わる審判(審判離婚)

(1)調停に代わる審判→当事者・代理人の出席不要

以上のように、離婚(離縁)を成立させる期日では、原則として、最低限代理人弁護士のリアル出席が必要で、場合によってはさらに本人の出席も必要になります。
この点、両方のリアル出席を避ける方法を避ける方法があります。それは調停に代わる審判(284条審判)を活用する方法です。裁判所が離婚するという調停条項を定めて、当事者に告知(送達)する、というものです。条文上、裁判所が相当と認める場合にこの手段を職権でとる、ということになっています。実際にはたとえば、当事者の両方が離婚することに納得しているという状態であれば、裁判所がこの手段をとることがあります。
調停に代わる審判によって離婚が成立した場合、(協議離婚、調停や判決による離婚とは区別して)審判離婚といいます。

(2)審判離婚の手続の流れ

調停に代わる審判で離婚が成立する場合の手続の流れを整理しておきます。

審判離婚の手続の流れ

あ 離婚調停での事前合意

離婚調停において、細かいものも含めて離婚条件について協議する
離婚条件について当事者両方の認識、希望が一致する

い 調停に代わる審判の要請(上申書)

当事者から裁判所に「調停に代わる審判」を要請する書面(上申書や要望書)を提出する
取り決めた離婚条件も記載しておくとよい

う 調停に代わる審判(告知)

裁判所が、調停に代わる審判として離婚条件を記載した書面(審判書)を当事者に送達する

え 確定

2週間の間に異議申立がなければ審判が確定する
審判確定により、法律上離婚が成立する

お 役所への離婚届提出

当事者(どちらか一方)が裁判所から確定証明書をもらって役所に離婚届を提出する

(3)審判離縁の実例

当事務所の扱い案件で、調停に代わる審判を活用して、出席せずに離縁を成立させたものがあります。前述のように離婚離縁では扱いは異なりません。

審判離縁の実例

事前に当事者双方が「離縁する」意向を表明していた
申立人は代理人弁護士が電話で出席し、本人は一切出席しなかった
相手方は本人が出席した
調停に代わる審判として、離縁が成立した
調停期日において裁判官が調停条項を読み上げ、告知は後日送達をした

6 まとめ

以上のように、家事調停では、その内容、状況によって、細かく手続やその運用が異なるものが多いです。進め方によってスピードや金銭的、精神的コストが大きく違ってきます。また、進め方によって、解決(離婚成立など)のタイミングを逃してしまうかどうかにつながることもあります。マイナーな手続も含めて最適な手段を検討することが非常に重要です。

本記事では、離婚や離縁の調停におけるリモート参加や調停に代わる審判の活用について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に遠方に居住する当事者間の離婚(離縁)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【調停に代わる審判(家事事件手続法284条)の理論と解釈】
【ライフライン設置権の規定と解釈(平成29年改正民法213条の2、213条の3)】

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