【相続登記の義務化の全体像(令和6年4月施行・背景・対象者・期限など)】
1 相続登記の義務化はいつ?→令和6年4月から
令和6年4月1日から、相続登記が義務化されました。
この改正により、相続によって不動産を取得した場合、一定の期間内に相続登記を行うことが義務付けられました。違反すると制裁の対象となります。
2 なぜ義務化されたの?→所有者不明土地の解消
相続登記義務化は、所有者不明土地の増加という社会問題に対応するために導入されました。日本では所有者が分からない土地が増加しており、国土の約24%が所有者不明土地であると推定されています。この状況は、環境の悪化や公共事業の遅延に繋がるため、早急な解決が求められています。
その解決策の1つとして、相続登記が義務化されました。つまり、所有者を明確にすることで所有者不明土地を生み出さない、という趣旨です。
3 相続登記の義務の内容
(1)誰が義務を負う?→不動産を相続した人
相続登記の義務があるのは、不動産を相続したすべての相続人です。
不動産を単独で相続した人も、共同で(複数人で)相続した人も含みます。
遺産分割協議が完了した場合はもちろん、完了していない場合であっても相続登記をする義務があります。
この点、相続放棄をした場合は相続人ではない扱いになります。
詳しくはこちら|相続分の放棄の全体像(相続放棄との違い・法的性質・効果・家裁の手続排除決定)
相続放棄をした人には登記義務はありません。
(2)いつまでに登記するの?→相続を知ってから3年以内
相続登記の期限は、相続を知った日から3年となっています。この期限までに遺産分割が完了していない場合であっても登記申請をする義務があります(前述)。
4 ペナルティ→過料
(1)登記しないと?→10万円以下の過料
相続登記の義務があるのに申請しない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。ただし、正当な理由がある場合には罰則が猶予または免除されることがあります。
(2)正当な理由とは?→争いや病気など
正当な理由としては、次のようなケースが考えられます。相続人が多数いて調整が難しい場合。経済的困難によって手続きが遅れている場合。相続人同士で争いがあり、手続きが進められない場合。重病やその他の理由で手続きを進めることが困難な場合。これらの理由がある場合、法務局に相談することで過料が免除または猶予される可能性があります。
5 相続登記の方法は?→法務局への登記申請
(1)登記するには?→法務局への申請
相続登記は法務局(登記所)への申請によって行います。
書面を法務局の窓口に提出する方法とオンライン申請があります。
必要書類は戸籍事項証明書(戸籍謄本)や、遺産分割が完了している場合は遺産分割協議書、相続人全員の同意書などです。状況によって必要書類の内容は違ってきます。
(2)他の相続人の協力が必要?→相続人のうち1人だけで申請可能
複数の相続人がいる場合で、遺言がないケースでは遺産分割によって最終的な承継者を決めます。この場合でも、遺産分割が終わっていない段階で、暫定的な法定相続の登記をすることができます。これは相続人の1人だけで申請できます。他の相続人に協力してもらう、という必要はありません。
実際に、遺産分割で対立している中で、相続人の1人が登記申請を済ませる、ということがよくあります。
遺言によって単独で承継した相続人は、単独で登記申請をすることができます。
詳しくはこちら|相続に関する登記申請|非協力者の存在×証書真否確認訴訟・給付訴訟
なお、単独相続の登記が終わった後で、「その遺言は無効だ(撤回されている)、登記は不正だ」という主張がなされる、というケース(相続トラブル)もあります。
詳しくはこちら|遺言の無効事由の種類(全体・無効主張の特徴・傾向)
詳しくはこちら|遺言の撤回の種類(基本的解釈・具体例)
6 相続人申告制度→相続登記とは別の新制度
(1)相続人申告登記とは?→簡易な新制度
令和6年4月から導入された「相続人申告登記」は、相続登記を簡略化するための新しい制度です。
相続登記は誰が所有者か(相続したのは誰か)が登記に記載されますが、相続人申告制度では、相続人であることだけの申告です。たとえば遺産分割協議が終わっていないので、不動産を相続する(取得する)かどうかが決まっていない段階で活用できる制度です。
「相続人申告」をすれば、相続登記義務を果たしたことになります。
(2)相続人申告登記の注意点は?→所有権取得ではない
相続人申告の手続は、あくまで相続登記義務を履行するための簡易手続であり、所有権の取得を意味するものではありません。
後日、遺産分割が完了し、正式に不動産を取得した場合には、正式な相続登記をする必要があります。
7 相続登記をしないリスクは?→権利関係が複雑化
相続登記を行わない場合、以下のリスクが考えられます。
<相続登記をしないリスク>
あ 権利関係の複雑化
相続人が複数いる場合、登記を行わないと将来的に権利関係が複雑化し、相続人同士で争いが発生する可能性がある
い 不動産売却ができない
登記が完了していない不動産は通常、売却ができない
急いで資金が必要な場合や資産整理が難航することになる
う 差押リスク
相続人の債権者が不動産を差し押さえるリスクがある
相続人に債務がある場合、相続財産が差し押さえられ、権利関係がさらに複雑化する
え 第三者の介入
相続人以外の利害関係者が登場し、事態が複雑化するリスクもある
8 いつ専門家に相談?→手続が複雑な場合
前述のように、相続登記を申請すること自体は他の相続人の協力が不要なので難しいことはありません(申請手続については司法書士に依頼することで足ります)。ただし、相続登記がきっかけとなり、他の相続人との間で遺産分割や、遺言の有効性について意見の対立(トラブル)が表面化する、ということがよくあります。
相続人の間の対立が生じている、生じるかもしれない、という場合は、早めに弁護士のサポートを受けることが望ましいです。
9 相続登記への備えは?→早めの登記が重要
相続登記は遅延することで様々なリスクを引き起こします。相続を知ったら、早めに登記を行うことが重要です。
特に複雑な相続の場合は、早めに専門家に相談することが、トラブルを回避する、または最小限に抑えることにつながります。
本記事では、相続登記の義務化について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺産分割や登記など、相続に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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