【失踪宣告の申立権者(利害関係人)の意味と具体例】
1 失踪宣告の申立権者(利害関係人)の意味と具体例
長年生死不明の状態にある者について亡くなったものとみなす、失踪宣告という制度があります。
詳しくはこちら|普通失踪(失踪宣告)の基本(要件・効果・手続)
失踪宣告は誰が申立をすることができるか、という問題があります。本記事ではこれについて説明します。
2 類似制度との比較→検察官が入っていない(参考)
たとえば不在者財産管理人選任など、失踪宣告と類似する手続では、申立権者に検察官も入っているものもあります。
詳しくはこちら|不在者財産管理人の制度の全体像(選任要件・手続・業務終了)
しかし、失踪宣告の申立権者に検察官は入っていません。
3 利害関係人の範囲のまとめ
民法上、失踪宣告の申立をすることができる者は、利害関係人だけ、ということになっています。利害関係人とは、法律上の利害関係をもっている者、という意味です。これに関していろいろな説明を紹介しますが、最初に結論を整理しておきます。
まず、不在者Aの相続人は、Aが死亡したとみなされることでAの財産を承継するので利害関係人に入ります。Aが死亡した時に生命保険金を受け取る者(受取人)も利害関係人に入ります。
一方、債権者(Aに金銭を貸している者など)、相続権はないけど親族である(単なる近親者)だけの者、Aと取引(契約)関係があるだけの者、は原則的に利害関係人に入りません。
利害関係人の範囲のまとめ
4 コンメンタール民法
利害関係人の意味について、コンメンタール民法は基本的なことだけ指摘しています。
コンメンタール民法
不在者の配偶者、親、子、受遺者、保険金受取人などがこれに当たる。
※我妻榮ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p93
5 新版注釈民法
新版注釈民法は利害関係とは相当重要であることを必要とすると指摘し、肯定、否定の具体例を挙げています。
新版注釈民法
あ 基本
利害関係人とは、失踪宣告をすることについて法律上の利害関係を有する者をいう(我妻105)。
失踪宣告の効力は、婚姻を解消させ、相続を開始させるという重大な意義を持つから、単に法律上の利害関係があるだけで請求権を認めるのは妥当ではなく、相当重要な利害関係たるを要すると解すべきである。
※谷口知平・湯浅道男稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p468
い 肯定される具体例
(a)配偶者、法定相続人は問題なく利害関係人である。
(b)受遺者は、遺言が秘密遺言でなく、受遺者であることを知っていたなら利害関係人ともいえるが、秘密遺言では、死亡後はじめて開披されて受遺者であることを知るのであるから、利害関係人であるとはいえない。
(c)保険金受取人は利害関係人であるとするのが通説(穂積・改訂181、我妻=有泉53)だが、第三者が契約して受取人となっている場合は、配偶者や遺族に迷惑を及ぼすことを認めることはできないので利害関係人ではないとする説(大谷・前掲書518)がある。
(d)親権者、後見人、父母、委任管理人、家庭裁判所選任の不在者財産管理人は、不在者の財産上・身分上の関係を処理すべき責務を有する者として利害関係人と解される。
う 否定される具体例
(e)父母、配偶者以外の法定相続関係にない親族、債権者・債務者その他取引関係の相手方、不在者のための事務管理者と解される者は、一般的には不在者の死亡について特に利害関係があるとはいえない。
けだし、不在者財産管理人を選任させ、その者を相手方として有効に債権の取立、債務の弁済ができるからである。
しかし、不在者の死亡によって消滅する債務を負担する者、終身定期金債務者、恩給債務者たる国などは、失踪宣告によって債務を免れる者であり、不在者の債権者、相続人たるべき者の債権者も、相続によってその債務者の財産が増加すべき場合は、利害関係を有する者と解される(穂積・改訂181、幾代35、川井70)。
え 法人→肯定
(f)法人は利害関係人となりうるか。
この点、家事事件として処理される関係や戸籍法の内容などから、法人に申立権を認めるのは妥当でないとの考え方もある。
しかし、利害関係人として申立権を認め、審判確定の場合は届出義務を負い(戸94)、戸籍には〇〇企業組合代表理事何某届出と記載するものとされる(昭37・4・3民甲962号民事局長回答、戸籍170号32)。
※谷口知平・湯浅道男稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p470
6 松岡登・不在者の財産管理及び失踪
松岡氏も、利害関係は厳格に解釈(判定)することを指摘し、肯定、否定の具体例を説明しています。
松岡登・不在者の財産管理及び失踪
あ 基本
利害関係人とは、失踪宣告を求めるについて法律上の利害関係を有する者をいうと一般に解されている。
い 解釈の方向性→厳格
失踪宣告は、生死不明の不在者の死亡を擬制するという重大な効果を生じさせるものであるから、その申立権者は、不在者財産管理の請求の場合よりも厳格に解する必要がある。
う 具体例
ア 肯定の例
不在者(失踪者)の配偶者、法定相続人、受遺者が利害関係人に該当することは明らかであり、
親権者、後見人、委任又は選任による不在者財産管理人は、不在者の身分上、財産上の関係を処理すべき責務を負う者であるから、これに該当すると解されるが、
イ 否定の例
不在者の債権者、債務者、取引の相手方、不在者財産の賃借人などは、不在者の死亡によって債権債務関係が変動するわけではなく、不在者財産管理人の選任を求めて、これを相手方として法律関係を処理すれば足りるから、利害関係人には該当しない。
もっとも、不在者の債務者が失踪宣告によって債務を免れるような場合(例えば、終身定期金の支払義務者)は、利害関係人に該当すると解される。
※松岡登稿『不在者の財産管理及び失踪』/岡垣學ほか編『講座・実務家事審判法4』日本評論社1989年p132
7 債権者による失効宣告申立のための戸籍情報取得→否定(参考)
以上のように、単なる債権者は失踪宣告の申立権者に含まれません。このことから、債権者が失踪宣告申立を理由として戸籍情報を取得しようとしても、役所に開示を拒否されます。
債権者による失効宣告申立のための戸籍情報取得→否定(参考)
※平成2年7月12日民二2939号通達
※西岡攻稿/証明書交付請求研究会編著『実用 各種証明書のとり方』日本法令2021年p36参照
本記事では、失効宣告の申立権者について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に所在や生死が不明の者に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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