【生命保険金が特別受益にあたる場合の持戻額の計算方法】

1 生命保険金が特別受益にあたる場合の持戻額の計算方法

相続人の1人が生命保険の受取人となっていて、実際に保険金を受領した場合、相続人の間で不公平感がありますが、法的性質から原則として特別受益にあたらない(遺産分割の枠外である)ことになります。ただし、事情によっては例外的に特別受益にあたる(遺産分割の計算に含める、遺留分の計算で使う)ということがあります。
詳しくはこちら|相続における生命保険金の扱いの全体像(相続財産・特別受益・遺留分)
例外的に特別受益にあたる場合に、持ち戻す金額(遺産分割の計算に含める金額)をどうやって計算するか、という問題があります。本記事ではこれについて説明します。

2 支払保険料説

持戻額については複数の見解がありますので順に説明します。
まず、支払った保険料(掛け金)を持戻額とする見解です。仮に保険料を支払ってなかったとすれば被相続人の手元に残っていた金額ということになります。

支払保険料説

被相続人が支払った保険料(掛金)の金額とする
※岡岩雄『実務から見た家族法入門』日本加除出版p217

3 保険金額説

次に、保険金の金額を持戻額とする見解です。実際に支給された金額に着目するものです。

保険金額説

あ 中川善之助氏見解

保険金額(受領額)とする
※中川善之助『註釈相続法(上)』有斐閣p253

い 土谷裕子氏見解

保険金額を基準にするのが原則である
※土谷裕子『最高裁判所判例解説民事篇平成16年度』法曹会p634

4 保険金額修正説(相続税法3条1項1号準用説・通説)

前述の保険金の金額をベースとしつつ、誰が保険料(掛け金)を負担したのかということも反映させる方法です。支給された保険金に、保険料(掛け金)の総額のうち被相続人が負担していた割合をかけます。たとえば全額を被相続人が負担していた場合は支給された保険金の金額そのもの(100%)が持戻額となります。
この見解が通説となっています。つまり、実務ではこの計算方法が採用される傾向があります。

保険金額修正説(相続税法3条1項1号準用説・通説)

あ 計算方法

持戻額
=保険金 × (被相続人が負担した保険料/保険料の全額)
※大阪家裁昭和51年11月25日
※宇都宮家裁栃木支部平成2年12月25日

い 通説という立場

・・・保険金額修正説が通説とされている。
※片岡武ほか編著『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務 第3版 』日本加除出版2017年p263

5 死亡時解約金説

解約返戻金をベースとする見解もあります。相続とは関係ない局面で、保険(契約)の価値として使われることのある考え方です。

死亡時解約金説

死亡時における解約返戻金額とする
※遠藤浩『相続財産の範囲』/『家族法大系6 中川善之助教授還暦記念』有斐閣p180

6 結論→保険金額修正説の採用傾向

以上のように、持戻額の計算方法について、最高裁判例のような統一的基準はありません。そこで、個別的な事案によって裁判所が採用する計算方法の選択が異なる、といえます。ただし前述のように、実際には保険金額修正説が採用される傾向が強いです。

本記事では、生命保険が特別受益にあたる場合の持戻額の計算方法について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に生命保険金の支給がなされた相続、遺産分割に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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