【遺産分割調停の段階的進行モデル(家裁の遺産分割の流れ)】

1 遺産分割調停の段階的進行モデル(家裁の遺産分割の流れ)

遺産分割は、ご家族にとって感情的にも難しい問題となることが少なくありません。「誰がどの財産を取得するべきか」「生前贈与は考慮されるのか」など、様々な疑問や対立が生じやすい場面です。
話し合いで解決できない場合、家庭裁判所の遺産分割調停という手続を利用することになります。調停では、裁判官と調停委員が間に入り、当事者の合意形成をサポートします。
この記事では、近年多くの家庭裁判所で採用されている「段階的進行モデル」について解説します。この仕組みを理解しておくことで、調停における見通しが立てやすくなり、円満解決に近づくことができるでしょう。
なお、段階的進行モデルの詳細な内容については、別の記事に整理してあります。
詳しくはこちら|遺産分割調停の段階的進行モデル(詳細整理ノート)

2 家庭裁判所の「段階的進行モデル」とは

遺産分割調停では、「段階的進行モデル」という方法で手続が進められます。これは、複雑な遺産分割の問題を5つの段階に分けて、一つずつ解決していく仕組みです。
かつての調停では、相続人や遺産の範囲、評価額などの問題が同時進行で議論され、話し合いが混乱することがありました。また、一度決まったことを蒸し返されるケースも多く、調停が長期化する原因となっていました。
段階的進行モデルは、東京家庭裁判所が平成末期に導入し、その効果が認められて現在では全国の家庭裁判所に広がっています。各段階で合意したことは原則として後戻りせず、次の段階へと進みます。このように整理された形で進めることで、話し合いが効率的になり、調停期間の短縮や解決への道筋が明確になるというメリットがあります。依頼者の方にとっては、今どの段階にいるのか、次に何を決めるべきなのかが分かりやすくなるのです。

3 遺産分割調停の段階的進行モデル5ステップ

(1)ステップ1・相続人の範囲の確定→誰が相続人なのか

最初に確定するのは「誰が相続財産を受け取る権利を持つのか」という点です。
一般的には、配偶者や子ども、親などが該当しますが、養子縁組や離婚、認知などの事情により、複雑なケースもあります。この段階では、戸籍謄本などの公的書類をもとに相続人を確定します。相続人の範囲に争いがある場合は、別途の裁判が必要になることもあります。
この段階は「ケーキを食べる権利を持つ人を決める」段階と例えることができます。

(2)ステップ2・遺産の範囲の確定→遺産は何があるのか

次に、「被相続人(亡くなった方)が残した財産は何か」を明らかにします。
不動産、預貯金、有価証券、自動車、貴金属などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。法律上、遺産分割の対象となるのは、原則として遺産分割時にも存在する財産です。遺産の範囲について争いがある場合(「この預金は生前贈与だった」など)は、この段階で解決する必要があります。場合によっては遺産確認訴訟という別の手続が必要になることもあります。
この段階は「どんなケーキを分けるのか決める」段階といえるでしょう。

(3)ステップ3・遺産の評価の確定→遺産の価値はいくらか

確定した遺産について、その経済的価値(評価額)を決めていきます。現金や預貯金は額面通りですが、不動産や骨董品、非上場株式などは評価が難しく、専門家による鑑定が必要になることもあります。不動産鑑定士や公認会計士による鑑定を行うこともあります。遺産の評価を行う際には、相続開始時(被相続人が亡くなった時点)の評価額と、遺産分割時の評価額の両方が重要となります。特別受益や寄与分を考慮する際には相続開始時の評価額が、最終的な財産分配では遺産分割時の評価額が使われるのが一般的です。
この段階は「ケーキの価値を決める」段階です。

(4)ステップ4・特別受益と寄与分の確定→生前贈与や貢献は考慮されるのか

亡くなった方から生前に多額の援助を受けていた方(特別受益)や、亡くなった方の介護や事業に特別に貢献した方(寄与分)がいる場合、その事実を考慮して相続分を調整します。
特別受益とは、生前贈与や遺贈によって得た利益を指し、「生前に住宅資金を援助してもらった」などの事実がこれに該当します。なお、生命保険金は原則として特別受益とはみなされませんが、例外もあります。
詳しくはこちら|特別受益の基本的事項(趣旨・持戻しの計算方法)
寄与分は、被相続人の財産の維持または増加に特別な貢献をした相続人が、法定相続分よりも多く財産を取得できる制度です。
詳しくはこちら|寄与分の基本(制度の趣旨や典型例)
この段階は「先に別のケーキを食べた人は取り分を減らし、ケーキ作りを手伝った人には取り分を増やす」段階です。
ここまでの4ステップは、実は、次の遺産分割(そのもの)の前提という位置づけです。実務では前提問題と呼んでいます。

(5)ステップ5・遺産の分割方法の確定→誰がどの財産を取得するか

最後に、これまでの段階で確定した事項をもとに、具体的に誰がどの財産を取得するかを決定します。分割方法には、現物分割(財産をそのまま分ける)、換価分割(財産を売却して現金を分ける)、代償分割(一方が財産を取得し、他方に代償金を支払う)、共有分割(財産を共有する)などがあります。この段階では、相続人それぞれの希望や生活状況なども考慮されます。この段階で相続人全員の合意が得られれば、遺産分割調停が成立します。
この段階は「実際にケーキを取り分ける」段階です。
「分け方」の中身については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺産分割の分割方法の基本(分割類型と優先順序)

4 段階的進行モデルのメリットと注意点

(1)メリット

手続の効率化については、争点を段階的に絞り込むことで、無駄な審理を減らし、早期解決を促進します。争点の明確化においては、各段階で解決すべき事項が明確になるため、問題点を把握しやすくなります。予測可能性の向上については、手続の進行が段階的に定められているため、今後の見通しが立てやすくなります。合意形成の促進については、小さな合意を積み重ねることで、最終的な解決に向けた道筋がつけやすくなります。

(2)注意点

柔軟性の制限については、一度完了した段階に戻ることが原則として認められないため、後から新たな事実が判明した場合の対応が難しくなることがあります。準備の重要性については、各段階で適切な主張や証拠を提出する必要があり、事前の準備が重要になります。専門知識の必要性については、特に遺産の評価や特別受益の主張では、専門的な知識が求められることがあります。

5 よくある疑問

(1)遺産分割調停はどのくらいの期間がかかりますか?

一般的には3〜6ヶ月程度ですが、争点が多い場合や相続人が多い場合は1年以上かかることもあります。段階的進行モデルの導入により、以前よりも期間短縮が図られています。東京家裁においては、段階的進行モデル導入後の平均審理期間が短縮されているというデータもあります。

(2)調停に弁護士は必要ですか?

法律上は弁護士なしでも調停は可能ですが、法的知識がないと不利な合意をしてしまうリスクがあります。特に、遺産が高額な場合や争いが複雑な場合は、弁護士のサポートがあると安心です。各段階で適切な主張や証拠を提出するためにも、専門家の助言が役立ちます。

(3)調停で決まらないとどうなりますか?

調停で合意に至らない場合は「不成立」となり調停手続は終了し、審判手続に移行します。審判では、裁判官が法律に基づいて遺産の分け方を決定します。審判に不服がある場合は、さらに家庭裁判所に異議を申し立てることができます。
ただ、合意に至らない、つまり対立している内容が前提問題である場合は、遺産分割の審判ができません(理論的にはできますが、あとから否定されるリスクがあります)。そこで具体的な前提問題について、遺産分割とは別の訴訟や審判の手続を用いることになります。
詳しくはこちら|遺産分割の前提問題(遺産の範囲・相続人の確定・遺言の有効性・所有権確認)

6 まとめ

遺産分割調停における「段階的進行モデル」は、複雑な遺産分割問題を整理し、効率的に解決するための重要な枠組みです。5つの段階を順序立てて進めることで、争点を明確にし、一つずつ解決していくことができます。

本記事では、遺産分割調停の段階的進行モデルについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺産分割、遺言など、相続に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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