【遺言無効確認訴訟の審理の実情(審理期間・主張・立証の傾向と特徴)(整理ノート)】

1 遺言無効確認訴訟の審理の実情(審理期間・主張・立証の傾向と特徴)(整理ノート)

実際の相続、遺産分割では、遺言があっても、その有効性が問題となることが多いです。つまり、結果的に遺言が無効となるケースもよくあるのです。相続人の間で有効、無効の見解が熾烈に対立するケースでは最終的に遺言無効確認訴訟で裁判所が有効か無効かを判断します。
本記事では、遺言無効確認訴訟の審理の実情を整理しました。
なお、審理の全体像の説明は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺言無効|実務|証拠・証人・保全的登記|公証人/医師の証言拒絶

2 無効主張がなされる遺言の種類→自筆証書遺言が大多数

無効主張がなされる遺言の種類→自筆証書遺言が大多数

無効確認の対象となる遺言は自筆証書遺言が最も多く、次いで公正証書遺言が多い
自筆証書遺言は、簡易に作成でき内容を秘密にできる反面、偽造変造の危険性があり自書性が争われやすい
公正証書遺言は偽造変造のおそれはないが、民法969条、同条の2により厳格な方式が要求されるため、方式違背が争われることが少なくない
秘密証書遺言及び特別の方式による遺言は事件数が極めて少ない
これは、自筆証書遺言が秘密保持の利点から多用される一方、公正証書遺言は厳格な方式から方式違反が問題となる傾向を反映している

3 遺言無効確認訴訟の審理期間

(1)遺言無効確認訴訟の審理期間→1〜2年が多い

遺言無効確認訴訟の審理期間→1〜2年が多い

審理期間は1年以上2年未満が最も多く、次いで6か月以上1年未満である

(2)登記・不当利得・遺留分の請求との併合による長期化

登記・不当利得・遺留分の請求との併合による長期化

比較的短期間で審理を終えることができる事件だが、他の事件と併合審理される場合は長期化することがある
併合審理される事件としては、遺言が無効であることを前提とする当該遺言の目的である財産についての登記請求事件、不当利得返還請求事件、遺言が有効であるとした場合の遺留分侵害額(減殺)請求事件等がある

4 審理上の留意点

(1)当事者の確認(固有必要的共同訴訟ではない)

当事者の確認(固有必要的共同訴訟ではない)

遺言無効確認請求事件は固有必要的共同訴訟ではないため、当事者適格を有する者の一部のみが当事者となることがある
紛争の背景把握や関係者を含めた一回的解決のため、訴訟提起後早期に戸籍謄本や相続関係図を提出させ、相続関係を把握すべきである
同一の遺言について別の無効確認訴訟が提起された場合、判断の統一のため訴訟の進行状況に照らして弁論の併合を検討すべきである
これは、同一の遺言の効力に関する判断が区々になることを避けるためである

(2)無効事由の特定(実務の傾向)

無効事由の特定(実務の傾向)

あ 自筆証書遺言の無効事由ランキング(多い順)

(ア)遺言能力の欠缺(抗弁である成立要件の主張に対する再抗弁)(イ)遺言書の偽造変造(抗弁である成立要件の主張に対する否認)(ウ)遺言の意思表示の効力(錯誤、詐欺・強迫、公序良俗違反)(抗弁である成立要件の主張に対する再抗弁)(エ)遺言の方式違背(日付、署名押印等)(抗弁である成立要件の主張に対する否認)(オ)遺言の撤回(民法1022条)(抗弁である成立要件の主張に対する再抗弁)

い 公正証書遺言の無効事由ランキング(多い順)

(ア)遺言能力の欠缺(抗弁である成立要件の主張に対する再抗弁)(イ)遺言の意思表示の効力(抗弁である成立要件の主張に対する再抗弁)(ウ)遺言の方式違背(口授の要件該当性、立会証人の欠格事由の存否など)(抗弁である成立要件の主張に対する否認)

う 審理上の留意点

多くの事件では複数の無効事由が主張されるため、早期に当事者に争点を特定させる必要がある
争点の性質に応じた審理の方針を立て、当事者との間で共通認識を形成することが重要である
遺言書の自書性が争われる場合は、原告が単に否認するのか、特定の者による偽造変造を主張するのかを明確にさせることが有用である

(3)主な無効事由に関する判断・立証のポイント

主な無効事由に関する判断・立証のポイント

あ 遺言能力の欠缺

遺言書が遺言者の高齢期や死亡時期に近接して作成されることが多いため、認知症その他の病気により判断能力が低下していることを理由に主張されることが多い
遺言者の生前の生活状況や医師の証言等が判断の重要な要素となる

い 偽造・変造(自書性)

自筆証書遺言はその全文を自書することが要求されているため(民法968条)、遺言書の文字が遺言者の自書によるものでないとの主張や、特定の者による偽造変造の主張がされることが多い
筆跡鑑定や遺言者の従前の意向との整合性などが判断の要素となる

う 公正証書遺言の方式違背

公証人が遺言者の口述を筆記する(民法969条3号)ため自書性は問題とならないが、口授の要件該当性や立会証人の欠格事由の存否など方式違背が主張されることが多い
公証人や立会証人の陳述書などが判断の要素となる

5 主な証拠(立証方法)

(1)書証→遺言書・戸籍・登記・無効事由関連

書証→遺言書・戸籍・登記・無効事由関連

あ 基本的な書証

(ア)無効確認の対象となる遺言書(イ)戸籍事項証明書(戸籍謄本)(相続関係把握のため、訴え提起段階での提出が望ましい)(ウ)不動産登記事項証明書、預貯金通帳等(遺言の目的である財産把握のため、訴え提起段階での提出が望ましい)

い 無効事由の判断に必要な書証

ア 自書性の判断(偽造の判断)のための書証 遺言者の日記やメモ類、以前の遺言書等(遺言者の意向を示すもの)
筆跡対照文書、私的筆跡鑑定書(筆跡の類似性を示すもの)
病院の診療録(自書能力の有無を推認させるもの)
イ 遺言能力の判断のための書証 病院の診療録、主治医の意見書、私的精神鑑定書
成年後見開始の審判、保佐開始の審判等の家裁事件記録の写し
ウ 公正証書遺言の方式違背の判断のための書証 立会証人や公証人等の陳述書(口授の要件該当性の判断のため)

う 審理上の留意点

基本的な書証は訴え提起段階での提出が望ましく、争点判断に必要な書証は審理の早い段階での提出を促すべきである
診療録等の当事者が所持しない証拠については、早期に文書送付嘱託の要否を見極める必要がある
遺言書の認否に際しては、自書性や意思表示の瑕疵の主張を明確に書証目録に記載させるべきである

(2)人証(証人・当事者尋問)

人証(証人・当事者尋問)

あ 一般的な人証

ア 共通 同居の親族、遺言により利益・不利益を受ける者(多くの場合、同居の親族でありかつ遺言により利益・不利益を受ける者である)
イ 自筆証書遺言の場合 遺言書の作成に立ち会った者
ウ 公正証書遺言の場合 公証人及び立会証人(特に口授要件の確認)

い 争点による人証

ア 遺言能力の欠缺が争点の場合 入通院先の医師、ヘルパーなどの付添人
イ 遺言の意思表示の効力が争点の場合 詐欺、強迫等を行ったと主張されている者
ウ 遺言書の作成者が争点の場合 作成立会者、保管者、発見者
エ 方式違背が争点の場合 公証人及び立会証人(特に口授要件の確認)

う 審理上の留意点

遺言者の生前の状況や遺言書の作成・保管状況等の間接事実は多くの場合人証による立証が必要だが、真に必要な事実と適切な人証を吟味し、効率的な人証調べを行うべきである
医師などが証人出頭に難色を示す場合は説得や日程調整の配慮、または書面尋問の利用も検討する

6 和解→遺産分割・遺留分を合意する

和解→遺産分割・遺留分を合意する

あ 和解勧試の時期

遺言無効確認請求事件では人証調べ前に和解勧試を行うことが多い
親族間の感情的対立があり、審理が進むとかえって和解が困難になる可能性があるため、早期の和解勧試が有効である

い 和解の留意点

親族間の感情的対立に配慮し、対席を避けるなどの工夫をすること、遺言の効力判断だけでなくその後の遺産分割における紛争の可能性や遺留分減殺の問題も含めた紛争の一挙解決のメリットを示すことが有効である

う 和解内容→遺産分割・遺留分

和解内容は裁判所の心証に応じて、遺産分割または遺留分侵害(減殺)を前提とした内容を検討することになる
なお、遺産分割の管轄は家庭裁判所にあるため、遺言無効確認請求事件の和解では「遺産を分割する」とは直接できず、「遺産分割することに合意する」という内容にとどまる
※家事審判規則99条1項、129条1項参照

7 付調停の活用→不動産鑑定士による評価など

付調停の活用→不動産鑑定士による評価など

遺産が莫大であったり、不動産や株式等の評価が必要な場合には、不動産鑑定士等を調停委員として活用できる
調停を利用する場合は、当事者間に調停利用の了解と遺言の効力等についてある程度の共通認識が必要である
専門的知見を活用したい場合は、ある程度審理が進んだ段階での付調停を検討するとよい
早期の段階での付調停は成立の見込みが薄い可能性がある

8 参考情報

参考情報

石田明彦ほか稿『遺言無効確認請求事件の研究(下)』/『判例タイムズ1195号』2006年2月p86〜92

本記事では、遺言無効確認訴訟の審理の実情について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺言の有効性など、相続や遺産分割に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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