【意思能力の基本(意味・効果・判断基準)(解釈整理ノート)】

1 意思能力の基本(意味・効果・判断基準)(解釈整理ノート)

民法の基本的な概念として、「意思能力」というものがあります。条文には書いてないですが、実務では当然とされているルールです。本記事では、意思能力の基本的な解釈を整理しました。

2 意思能力の基本(定義と意思無能力者の行為の効果)

意思能力の基本(定義と意思無能力者の行為の効果)

あ 定義

意思能力とは、契約等の意味内容を理解・判断する能力である

い 効果

意思無能力者(意思能力を欠く者)の締結した契約は無効とされる
これは、本人保護の政策的目的も果たしている

う 意思無能力における具体例

幼児が「アゲル」と言って1万円札を差し出した場合、贈与契約の意思表示とは言えず、そこには契約は存在しない
成人でも事理弁識能力を完全に失っている場合も同様に考えられる

3 意思無能力者の行為と代理(深掘り)

意思無能力者の行為と代理(深掘り)

あ 大正9年大判→法定代理人の行為と推定

意思能力ナキ未成年者ノ名義ヲ以テ為シタル法律行為ハ反証ナキ限リ、其未成年者自身ノ為シタルモノニ非ズシテ適法ノ代表者ニ於テ之ヲ為シタルモノト推定スベキ
※大判大正9年6月5日民録26・812

い 一般論→法定代理人の行為との推定なし

一般の場合は、意思能力のない者の名義でなされた法律行為は、原則として名義人のなしたものとはいえず、また法定代理人のなしたものと推定することもできない

4 意思能力の有無の判断基準→個別的判断・目安は7歳

意思能力の有無の判断基準→個別的判断・目安は7歳

あ 個別性

ア 行為者の事情 意思能力の有無は、個々の具体的な法律行為ごとに、行為者の能力・知能などの個人差その他をふまえた実質的個別的判断による
イ 法律行為の内容(種類) 画一的・形式的な基準ではなく、問題となる法律行為の種類によっても判定が異なりうる

い 年齢の目安→7歳

実際には7歳程度の通常人の知能が意思能力の有無の分界線であることが多いとされる

5 意思無能力と制限行為能力の競合→基本的に別個独立

意思無能力と制限行為能力の競合→基本的に別個独立

あ 原理→別個独立

意思能力と行為能力の有無は原理的には別の問題である
(ア)意思能力はないが行為能力はある者の法律行為は無効となる(イ)行為能力はないが意思能力はある者の法律行為は、法定の同意なく行われた場合、取消しうる

い 効果→二重効(通説)

同一人が意思無能力者かつ行為無能力者である場合、意思無能力を理由とする無効の主張と行為無能力を理由とする取消の両方が可能とする

う 競合の場合の調整

意思無能力を理由とする無効の主張は意思無能力者側からのみできる(民法120条の類推適用)
意思無能力者の負担軽減のため民法121条但書を類推適用する
相手方や第三者の地位の安全のため、無効主張は一定期間内に限られる

6 関連テーマ

(1)民法における意思能力と制限行為能力(本人保護の仕組み)の基本

詳しくはこちら|民法における意思能力と制限行為能力(本人保護の仕組み)の基本

7 参考情報

参考情報

鈴木禄弥稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p274〜279

本記事では、意思能力の基本について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に判断能力が低下した方による取引などに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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