【公正証書作成における公証人の注意義務と国家賠償責任(解釈整理ノート)】
1 公正証書作成における公証人の注意義務と国家賠償責任(解釈整理ノート)
公証人のサービスの1つとして、公正証書の作成があります。公証人が慎重にチェックしてくれるので、信頼性が高いので、いろいろな場面で活用されています。しかし、結果的にミスがあり、公正証書が無効と判断され、国家賠償請求が認められるレアケースもあります。
本記事では、公正証書作成の際の公証人の注意義務とミスがあった場合の国家賠償責任について、いろいろな解釈(判例)を整理しました。
なお、公正証書が無効になった実例については別の記事でも紹介、説明しています。
詳しくはこちら|公正証書遺言の無効と国家賠償責任(裁判例)
2 公証人の法的地位
(1)公証人の法的位置づけ→公務員そのものではないが国賠は肯定
公証人の法的位置づけ→公務員そのものではないが国賠は肯定
手数料等は嘱託人から受ける(公証人法7条)
しかし、国家賠償法1条の「公務員」に該当する
※東京地判昭和27年7月24日行集3巻6号1328頁(公証人が国家公務員法上の公務員でないことを確認)
(2)公証人の行為と国家賠償責任→国賠は肯定、個人責任なし
公証人の行為と国家賠償責任→国賠は肯定、個人責任なし
公証人の公証作用に起因する不法行為責任を負うのは国であり、公証人個人に対する損害賠償請求訴訟は認められない
※東京地判昭和32年4月20日下民集8巻4号807頁
3 公証人の義務違反→国家賠償責任発生(基本)
公証人の義務違反→国家賠償責任発生(基本)
判例の立場は、国民の権利義務に重大な影響を与える公正証書作成の慎重さの要請と迅速性の要請の調和を図るものである
4 印鑑に関する公証人の注意義務
(1)印鑑証明書等の確認義務
印鑑証明書等の確認義務
同条2項では、面識がないときは官公署作成の印鑑証明等により本人確認を行うことを求めている
代理嘱託の場合もこの規定が適用される(同法31条)
(2)押印証明書の真偽確認レベル→通常の注意力
押印証明書の真偽確認レベル→通常の注意力
すなわち、通常人の注意力をもって観察した場合に偽造の疑いがある場合に当該官庁等への問合せ義務が生じる
※京都地判昭和37年4月11日下民集13巻4号713頁
(3)印影照合レベル→折り重ね・拡大鏡
印影照合レベル→折り重ね・拡大鏡
※東京地判昭和60年7月8日訟月32巻5号900頁
※東京高判昭和61年11月26日民月42巻3号146頁
5 代理権に関する公証人の確認義務
代理権に関する公証人の確認義務
この証書が認証を受けない私署証書の場合は、官公署作成の印鑑または署名に関する証明書を提出させて証書の真正を確認しなければならない(同法32条2項)
この確認義務の懈怠は過失となる
※東京地判昭和46年7月2日下民集22巻7・8号731頁
6 遺言公正証書に関する注意義務
遺言公正証書に関する注意義務
※大阪高判昭和56年1月30日判時1009号71頁
7 公証人の通知義務
公証人の通知義務
あ 代理人嘱託の場合の通知義務
公証人法施行規則13条の21項により、公証人が代理人の嘱託により証書を作成した場合は、証書作成日から3日以内に、本人に対して①証書の件名等、②公証人の氏名等、③代理人等の情報、④強制執行条項の有無を通知する義務がある
ただし、代理人が本人の雇人または同居人である場合はこの限りでない
※福岡地判昭和60年3月27日判タ560号212頁(通知義務の懈怠は過失と認めたが、損害との因果関係を否定)
い 通知義務違反の効果
公証人法施行規則13条の2第1項の通知を怠っても、公正証書の効力には影響しない
※東京高判昭和38年12月25日東高民時報14巻12号330頁
8 参考情報
参考情報
本記事では、公正証書作成における公証人の注意義務と国家賠償責任について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に公正証書の有効性や公証人の責任に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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