【後見開始審判における後見人の人選(判断要素・手続・意向照会)】

1 後見開始審判における後見人の人選(判断要素・手続・意向照会)

家庭裁判所が後見開始審判をする際、同時に後見人の選任も行います。この時に誰を後見人に選任するか(人選)が問題となることがよくあります。本記事では後見人の人選(判断)に関する基本的事項を説明します。

2 後見人選任の判断要素の条文(民法843条4項)

後見人として誰を選任するかは裁判所の裁量です。これについて、抽象的な判断要素の例示が条文となっています。

後見人選任の判断要素の条文(民法843条4項)

成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。
※民法843条4項

3 後見人の選定プロセス(推薦・意向照会など)

家裁が後見人を選任するプロセスをまとめます。

後見人の選定プロセス(推薦・意向照会など)

あ 申立人の『推薦』

後見人選任(後見開始審判)の申立書提出段階
→申立人が『後見人推薦者』を記載することができる
裁判所が無条件に『推薦者』を指定するわけではない

い 関係者への『意向照会』

裁判所が関係者に書面を送付する
関係者が『意向』を記載して返送する

う 対立がある場合

関係者間で対立があるような場合
→『推薦者』の選任を避ける傾向が強い
→中立な立場の人を選任する

え 中立な立場の者

裁判所には、専門家の後見人就任希望者リストがある
例;弁護士・司法書士

4 保佐人・補助人の選定プロセス→本人の意向尊重

保佐・補助の選任プロセス自体は、後見人選任と同様です。
しかし、本人の意向が尊重・重視されるという傾向があります。

保佐人・補助人の選定プロセス→本人の意向尊重

あ 基本事項

基本的な扱いは後見人と同様である(上記)

い 本人の意向尊重

保佐・補助相当の本人は、意思能力がそれほど低くはない
→『本人の意向』が尊重される
※民法876条の2第2項、876条の7第2項

5 後見開始審判における意向照会

(1)後見開始審判における意向照会の内容

後見人を選任するのは後見開始の審判です。
この手続の中では『意向照会』が行われることが多いです。

後見開始審判における意向照会の内容

次のような事項についての意見を尋ねる
(ア)後見人を選任すること(イ)後見人を誰にするか

(2)後見開始審判における意向照会の対象者

家裁が意向照会を行う対象者についてまとめます。

後見開始審判における意向照会の対象者

あ 対象者

ア 本人(被後見人)の推定相続人イ 本人と同居している者ウ 本人の財産を管理している者エ 精神保健福祉法上の保護者

い 除外される者

次のいずれにも該当する者
ア 扶養義務の関係がないイ 本人との生活関係が希薄である

原則的な対象者は決まっていますが、例外も多いです。

6 親族を後見人に選任する状況(専門職を選任する基準)(概要)

実際の申立では、親族の1人を後見人候補者とする(推薦する)ことが多いです。これに対して裁判所がそのとおりに親族を後見人に選任することは多いです。ただし、その者とは別に専門職(第三者)を、追加の後見人または後見監督人として選任することもあります。
詳しくはこちら|後見開始審判において親族が後見人に選任される状況(専門職が選任される基準)

本記事では、後見人の選任基準について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に後見人の選任(後見開始の審判)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

条文

[民法]
(成年後見人の選任)
第八百四十三条  家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。
2  成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、成年後見人を選任する。
3  成年後見人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは成年後見人の請求により又は職権で、更に成年後見人を選任することができる。
4  成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。

(保佐人及び臨時保佐人の選任等)
第八百七十六条の二  家庭裁判所は、保佐開始の審判をするときは、職権で、保佐人を選任する。
2  第八百四十三条第二項から第四項まで及び第八百四十四条から第八百四十七条までの規定は、保佐人について準用する。
3  保佐人又はその代表する者と被保佐人との利益が相反する行為については、保佐人は、臨時保佐人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし、保佐監督人がある場合は、この限りでない。

(補助人及び臨時補助人の選任等)
第八百七十六条の七  家庭裁判所は、補助開始の審判をするときは、職権で、補助人を選任する。
2  第八百四十三条第二項から第四項まで及び第八百四十四条から第八百四十七条までの規定は、補助人について準用する。
3  補助人又はその代表する者と被補助人との利益が相反する行為については、補助人は、臨時補助人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし、補助監督人がある場合は、この限りでない。

弁護士法人 みずほ中央法律事務所 弁護士・司法書士 三平聡史

2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分

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【被後見人の財産処分;後見人の判断,裁判所の許可】
【認知症による財産デッドロックのリスクの予防(法定後見・任意後見)】

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