【特別受益の基本的事項(趣旨・持戻しの計算方法)】

1 特別受益の制度の趣旨
2 特別受益による持戻し計算
3 特別受益の対象となる贈与や遺贈(概要)
4 特別受益の計算における贈与金額の評価
5 遺留分における特別受益の準用
6 特別受益に関するトラブル解決手続(概要)

1 特別受益の制度の趣旨

相続人のうちに,被相続人からの生前贈与や遺贈を受けた者がいることがあります。この場合,原則としては,残った財産を相続財産として,法定相続分をベースにして遺産分割をすることになります。
詳しくはこちら|法定相続分|遺産共有・遺産分割が必要・遺言による回避
しかし,法定相続分をそのまま適用すると不公平が生じます。そこで,この不公平を修正するための特別受益という制度があります。

<特別受益の制度の趣旨>

あ 相続における不公平の発生

被相続人から相続人への遺贈・生前贈与について
→相続人の間で不公平が生じることがある

い 持戻し計算=不公平の解消

『あ』のうち一定のものについて
相続分の算定上『なかったものとして』扱う
=相続分の計算上,財産を『戻す』

う 制度の名称と呼称

『特別受益』という制度(規定)である
『持戻し』とも呼ばれる
※民法903条

このように『持ち戻し計算』を行います。
そこで特別受益のことを『持ち戻し』と呼ぶこともあります。

2 特別受益による持戻し計算

特別受益は,不公平となる生前贈与や遺贈を計算上『持ち戻す』ものです。計算方法をまとめます。

<特別受益による持戻し計算>

あ 持戻し

みなし相続財産
=相続財産+特別受益の内容

い 具体的相続分(全体)

具体的相続分(全体)
=みなし相続財産(あ)×各相続人の法定相続分

う 具体的相続分(特別受益控除後)

具体的相続分
=具体的相続分(い)−各相続人の受けた特別受益の内容

え 遺産分割

『う』の相続分を基準として
遺産分割により承継する具体的財産を決める

このように記述しても実際の計算方法が理解しにくいです。そこで,具体例を用いた計算内容を,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|特別受益の計算の具体例

3 特別受益の対象となる贈与や遺贈(概要)

特別受益に該当するものは一定の生前贈与と遺贈です。この点,特別受益に該当するかしないかの基準はあります。
詳しくはこちら|特別受益に該当するか否かの基本的な判断基準
しかし,具体的な事案で明確に判断できないことが多いです。当然この判断の違いで承継できる財産が大きく変わってくることもあります。特に生前贈与については,実際に熾烈な対立が生じやすいです。
特別受益が問題となりやすい生前贈与の内容と判断の傾向については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|生前贈与の代表的な内容(使途)と特別受益該当性の判断の傾向

4 特別受益の計算における贈与金額の評価

特別受益に該当する贈与・遺贈がある場合,持戻しの計算を行います(前記)。ここで持ち戻す,つまり加算する金額については次のような換算が必要となることもあります。

<特別受益の計算における贈与金額の評価>

あ 生前贈与

贈与を受けた時の金額・評価額について
→相続開始時の貨幣価値に換算する
※最高裁昭和51年3月18日

い 換算方法

一般的に消費者物価指数(CPI)を用いる
総務省統計局が作成している
外部サイト|総務省統計局|消費者物価指数

5 遺留分における特別受益の準用

特別受益とは別の制度として遺留分があります。遺留分でも,いわゆる持戻し計算が使われます。そして遺留分の算定において特別受益も計算の対象とされています。

<遺留分における特別受益の準用>

あ 遺留分の計算における持戻し

遺留分の制度でも持戻しの計算が用いられている
※民法1029条,1030条

い 遺留分における特別受益の準用

遺留分に関して特別受益の規定の準用もされている
※最高裁平成10年3月24日
※民法1044条,903条1項(改正前の1030条)
詳しくはこちら|遺留分算定基礎財産に含める生前贈与(平成30年改正による変更)

う 持戻し免除における違い

特別受益の効果を抑止する方法がある
=持戻し免除の意思表示
詳しくはこちら|持戻し免除の意思表示の基本(趣旨と方式や黙示の認定基準)
→これは遺留分には影響しない
詳しくはこちら|特別受益の持戻し免除の意思表示と遺留分との関係(基本・改正前後)

実務では,特別受益の主張とともに遺留分減殺請求を行うという状況もよくあります。

6 特別受益に関するトラブル解決手続(概要)

特別受益に関して熾烈な見解の対立が生じるケースはとても多いです。この場合の法的な解決手続は,通常,遺産分割の調停や審判となります。
特別受益は遺産分割の中の1つのプロセスとして位置付けられているのです。特別受益だけの単独での判断を裁判所に求めるアイデアもいろいろとあります。しかし,いずれも否定されています。
解決手続については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|特別受益に関する裁判手続(遺産分割手続と確認訴訟)と法的性質論

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