【遺留分放棄・基本|被相続人の生前に行える・家裁の許可基準・実情】
1 遺留分放棄は相続放棄と違って『相続権あり・生前に行える』
遺留分放棄とは、将来、遺留分減殺請求ができなくなるという制度です。
相続放棄と似ているけど違います。
比較をまとめます。
遺留分放棄と相続放棄の比較
手続 | 相続権 | 遺留分の権利 | (被相続人の)生前に行うこと | 裁判所の手続 |
遺留分放棄 | なくならない | なくなる | できる | 必要 |
相続放棄 | なくなる | (なくなる) | できない | 必要 |
相続放棄は、生前に行うことができませんが、遺留分放棄は生前に行うことが可能です。
事業承継などの計画的な財産、事業の承継の一環として活用することがあります。
詳しくはこちら|将来の遺留分紛争の予防策の全体像(遺留分キャンセラー)
2 遺留分放棄|相続開始後の『対立表面化』の予防策となる
例えば、父から子への相続は一般的に想定されます。
父の生前は、子は将来は遺留分などの権利は行使せず、兄弟仲良くすると言うことが多いです。
しかし父の死後、兄弟では相互に対立する、というのはよく生じます。
詳しくはこちら|遺言作成×遺留分ケア|子なし・公益団体への遺贈・1次/2次相続の違い
時間の経過もそうですが、父の存在が潜在的な対立を抑えている、という構造があるのです。
3 遺留分放棄|『遺留分を抵触する遺言・生前贈与』とセットで初めて意味がある
遺留分放棄は相続権を否定しません。
つまり、遺留分放棄をした者も遺産分割協議に参加できるのです。
そもそも遺留分が具体化するのは遺留分侵害(抵触)を含む遺言または生前贈与があった場合です。
詳しくはこちら|遺留分の制度の趣旨や活用する典型的な具体例(改正前・後)
通常『遺言+遺留分放棄』や『生前贈与+遺留分放棄』としてセットとして使われるのです。
もちろん、遺言を書くかどうか未定の状態で遺留分放棄の手続をしておく、という利用法もあり得ます。
言わば保険としておく、というようなものです。
ただ、家庭裁判所の許可の手続で『合理性』が審査されます(後述)。
この点で多少問題があります。
4 遺留分放棄の手続|家庭裁判所の許可が必要
遺留分放棄についての手続の基本的事項をまとめます。
遺留分放棄|手続=家裁の許可
あ 遺留分放棄の手続
家裁の許可が必要
※民法1043条1項
い 当事者間の合意
関係者で合意・調印しても家裁の許可がないと無効である
5 遺留分放棄|家裁の許可基準
遺留分放棄について家裁が許可する基準をまとめます。
遺留分放棄|家裁の許可基準
あ 真意
遺留分放棄が放棄者の真意に出たものである
い 合理性・必要性
遺留分放棄に合理的・必要的理由がある
う 対価の存在
遺留分放棄に対する代償財産の提供がある
※東京家裁昭和54年3月28日
6 家裁の許可|合理性・遺留分放棄の対価→厳格な審査はされない
遺留分放棄についての家裁の審査の実情をまとめます。
遺留分放棄|家裁の審査・実情
あ 重要な事情
遺留分放棄の理由の合理性
い 『合理性』の典型例
ア 引き換えとしての対価
遺留分放棄者が、遺留分放棄の引き換えとして金銭の贈与を受けた
イ 過去に対価を得ている
遺留分放棄者が、過去に、一定の財産の贈与や利益を受けている
う 審査の実情
原則として許可する
実務上、ほぼすべて許可されているのが実情です。
家裁への申立をする時点で、当事者が『遺留分放棄を理解・納得している』のが通常なのです。
もちろん、例外的に『不許可』となるケースもあります。
これについては次に説明します。
7 例外的な不許可|『一時的な感情の高ぶり』など
レアではありますが、家庭裁判所が、遺留分放棄を許可しなかった事例もあります。
『冷静な本心ではない』というような事例がほとんどです。
典型的な不許可の事例と、裁判例を次に示しておきます。
遺留分放棄を家庭裁判所が許可しないケース;典型例
あ 不許可となる事情
遺留分放棄をする者(申立人)が大きな間違いをしている
い 不許可の具体例
ア 熾烈な対立
相続とは関係ない問題で、推定される被相続人と申立人の間に熾烈な対立がある
例;両親が結婚に強く反対している
イ 駆け引きとしての『遺留分放棄』
対立の駆け引きの一環として『遺留分放棄』が使われた
う 不許可となった裁判例
※東京家裁昭和35年10月4日
※神戸家裁昭和40年10月26日
※大阪家裁昭和46年7月31日
※和歌山家裁妙寺支部昭和63年10月7日
※水戸家裁下妻支部平成15年6月6日
親子の口喧嘩で、テンションが上がって、思わず「遺留分放棄」を口にした状況では、本心から遺留分を放棄する意図ではないと判断されることがあります。具体例を挙げておきます。
熾烈な対立・駆け引き→本心ではない|具体例
ア 親 どうしても結婚したいなら親子の縁を切る!
現在の法律では『縁を切る』ことはできない。仕方ないから『遺留分放棄』をしろ!
イ 子 分かった。もう縁を切る!遺留分放棄をする!
8 遺留分放棄と同様の制度=固定合意・除外合意|事業承継特例法
遺留分放棄と同様の効果を得られる制度が別にあります。
事業承継特例法による固定合意・除外合意、という制度です。
事業承継に関する場合には有用です。
実際にこの制度が施行された後は『遺留分放棄』の活用数は減っています。
一方、固定合意・除外合意は適用されるためには一定の条件があります。
これに該当しないために『遺留分放棄を活用する』というケースもまだ多いです。
詳しくはこちら|固定合意、除外合意により事業承継と遺留分の抵触を予防;中小企業経営承継円滑化法
9 遺留分放棄の撤回・解消|条文はないが家裁の手続は可能
遺留分放棄の手続をした後から、撤回・解消したいと考えるケースも多いです。
この場合の撤回・解消については、別記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|遺留分放棄の取消|家裁の手続・判断基準=前提事情の変化・裁判例
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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