【固定合意・除外合意|事業承継と遺留分の抵触を予防できる】

1 事業承継の要点=株式・事業用資産の承継と遺留分侵害の回避
2 除外合意・固定合意|概要|中小企業経営承継円滑化法
3 除外合意・固定合意|併用もできる
4 除外合意・固定合意|『経産省の確認+家裁の許可』が必要
5 経済産業大臣の確認は,形式面を中心の審査である
6 家庭裁判所の許可・審査|『真意』を確認する
7 除外合意・固定合意の弱点|代替策
8 除外合意・固定合意の弱点|使えない事情|例

1 事業承継の要点=株式・事業用資産の承継と遺留分侵害の回避

事業主の方は,事業用資産を個人として所有している状態になっていることが多いです。
仮に事業を法人化している場合でも,その大部分の株式を所有しているのが通常です。
そして,事業の後継者(候補)に,事業に必須の財産を確実に後継者に承継する必要があります。
ここで問題となるのが遺留分です。
相続開始後,後継者以外の相続人遺留分減殺請求をしてくる可能性があります。
そうなると,事業用資産や株式の議決権を後継者以外も持つ状態となります。
詳しくはこちら|遺留分の権利・効果の法的性質(平成30年改正による金銭債権化)
事業の遂行に大きな支障が生じる可能性があります。

遺留分については,『副作用』として弊害が生じることがあります。
これを回避,抑制する方法は別に説明しています。
詳しくはこちら|将来の遺留分紛争の予防策の全体像(遺留分キャンセラー)
ここでは,事業承継に特化した中小企業経営承継円滑化法による2つの手続を説明します。

2 除外合意・固定合意|概要|中小企業経営承継円滑化法

文字どおり,中小企業の事業承継をサポートする制度が規定されています。
2種類について概要をまとめます。

(1)除外合意,固定合意の制度

<除外合意>

※中小企業経営承継円滑化法4条1項1号
ア 内容 後継者へ生前贈与した自社株について,遺留分算定基礎財産に算入しないとする合意です。
イ 結果 贈与された自社株は遺留分減殺請求の対象から外れます。
ウ 趣旨 事業承継を安定的に行い,後継者が会社経営に専念できるようにするという趣旨です。

<固定合意>

※中小企業経営承継円滑化法4条1項2号
ア 内容 後継者への生前贈与の自社株について,遺留分算定の基礎財産に算入する価格を合意時点での価格とする合意です。
イ 結果 後継者の経営意欲・モチベーションの低下防止です。
ウ 趣旨 上記の除外合意と同様です。

固定する評価額については,公的なガイドラインが作成されています。
詳しくはこちら|非上場株式等評価ガイドラインでは固定合意における目安がまとめられている

3 除外合意・固定合意|併用もできる

※中小企業経営承継円滑化法4条1項1号,2号
除外合意固定合意を組み合わせることも制限されていません。
併用も可能とされています。

4 除外合意・固定合意|『経産省の確認+家裁の許可』が必要

除外合意固定合意は,当事者(推定相続人)が合意するだけでは利用できません。
次の2機関での手続きを経る必要があります。

<除外合意,固定合意に必要な公的手続>

ア 経済産業大臣の確認イ 家庭裁判所の許可 ※中小企業経営承継円滑化法7条1項

5 経済産業大臣の確認は,形式面を中心の審査である

経済産業大臣の確認の内容は,除外合意,固定合意の制度を利用するための前提条件です。
形式的な要件が中心です。

<経済産業大臣の確認における審査対象>

あ 審査基準

ア 当該合意が経営の承継の円滑化を図るためにされたものであることイ 申請者が後継者の要件に該当することウ 合意の対象となる株式を除くと,後継者が議決権の過半数を確保することができないことエ 以下の場合に非後継者がとることができる措置の定めがあること

い 事後的措置が必要な事項

ア 後継者が合意の対象となった株式を処分した場合イ 旧代表者の生存中に後継者が代表者として経営に従事しなくなった場合

6 家庭裁判所の許可・審査|『真意』を確認する

家庭裁判所の許可における審査の内容は,実質的な当事者の意思の確認です。
要は,不利益を被る推定相続人が,真に納得しているかどうか,というところがポイントになります。

<家庭裁判所の許可の基準>

あ 許可基準

合意が当事者全員の真意によるものであること
※中小企業経営承継円滑化法8条2号

い 具体例

非後継者は株式を承継しない
その引き換えとして,他の財産を承継する(している)

以上の手続を経て,除外合意・固定合意が有効となります。

7 除外合意・固定合意の弱点|代替策

除外合意・固定合意は有用ですが『使えない』という場合もよくあります。
典型的な状況とその代替策をまとめます。

<除外合意・固定合意の弱点|代替策>

あ 抵触しがちな『要件』

『遺留分を有する後継者』が『議決権の過半数を有する』状態になる
※事業承継特例法3条

い 代替策

『遺留分放棄』を活用する
詳しくはこちら|遺留分放棄・基本|被相続人の生前に行える・家裁の許可基準・実情

8 除外合意・固定合意の弱点|使えない事情|例

除外合意・固定合意が使えない事情の典型例をまとめます。

<除外合意・固定合意の弱点|使えない事情|例>

あ 旧代表者が株式を直ちに譲渡しない

例;遺言や死因贈与により承継させる

い 遺留分を有しない者が後継者となる

例;兄弟姉妹・甥・姪

弁護士法人 みずほ中央法律事務所 弁護士・司法書士 三平聡史

2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分

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